今週末(2013/7/21)は、参議院選挙の投票日である。争点に乏しい乏しいと言われているが、個人的にはなぜTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)がなぜ争点にならないのか不思議でならない。ちょっと前まであんなに国論を二分するほどに盛り上がっていたのに。もう世間は首相が参加表明したからあきらめモードなのだろうか。それともACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)の様に内容が明らかにおかしい条約なら日本が先走っても他が付いてこずにどうせ発行しないだろうと楽観しているのだろうか。
それでも、まだまだ強い危機感を抱いてTPPに警笛を鳴らし続ける人々が参院選の候補の中にも居るようだ。参院選で過半数をとるであろう自民党はTPP推進派なので、TPPに賛成であればこのままでいいだろう。しかし、TPPに反対するならばこの参院選が最後の分水嶺となりそうだ。安倍首相はTPPの議論はもう尽くされたと発言しているが、そもそも秘密条約であるTPPの条文とはどのようなものなのだろうか。TPPの内容は一般公開されておらず、国会議員が内閣官房に内容の開示を求めても断られるような状態でいったいどんな議論が尽くされたというのだろう。賛成派の主張を聞いても、「平成の開国だ」とか、「バスに乗り遅れる」とか、象徴的な話ばかりでいまいち要領を得ない。ひどい物の中には、「日本はもうだめだから、外圧でかえてもらおう」なんてことを真面目に言ってるのを耳にしたこともある。TPPについて考えるとき、なんだかわからずに悶々としてしまうのだ。感情論でないちゃんとした議論を聞いたことが無いので賛成とも反対ともいえないなぁと、そんな気がしていた。因みに、初期の条文の一部(24項目中20項目)は、暴露されておりニュージーランド政府のHPから拾うことができる
Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement
http://www.mfat.govt.nz/downloads/trade-agreement/transpacific/main-agreement.pdf
http://www.mfat.govt.nz/Trade-and-Economic-Relations/2-Trade-Relationships-and-Agreements/Trans-Pacific/0-P4-Text-of-Agreement.php
因みに、本書の中で誤訳を指摘されている慶應義塾大学 渡邊頼純研究会2012による和訳は以下で読める
http://web.sfc.keio.ac.jp/~s10683fh/tpp_sansei/p4index.html
TPPは、国内法より優先される条約であり、その中でも全業界の全品目での関税の完全撤廃を目指すという超ド級に広範囲の影響を及ぼしまくる異例の条約である。参議院選挙の前にちゃんと理解しておく必要があるだろう。そんなことを考えていた時に読んだのが、苫米地英人著「TPPが民主主義を破壊する!」である。この本はとても薄くさらっと読めてしまう。参議院選挙前に間に合わせるための緊急出版であるようだ。この本とは別にしっかりとしたハードカバーのTPPに関する本を改めて出版する予定とのことだ。それほどまでにTPPに危機感を抱いていると言う事らしい。著者である苫米地英人博士は、最近では元オセロの中島知子氏のコーチングを担当したり、少し前では脱洗脳でオウム事件の操作に協力したり、さらに昔にはロックフェラーセンサーの買収の際に三菱地所の社員として係っていた事で有名な人物である。飛び切り怪しげな印象とは裏腹に、他の怪しげ業界の面々とは一線を画し、表舞台の最前線に近いところによく出没する人物だ。その苫米地博士によるTPPの解説本である。苫米地博士は、本のタイトルからも読み取れる通り、TPPに明確な反対の立場をとっている。反対理由は以下のような点である。
- TPP似合うように国内法をメンテナンスする義務を負ってしまう
- TPP内容を知ることができるのは、政府当局と選挙でえらばれていない外国の民間人
- TPPによって国内法が決まるので、国内の政治家の意味がなくなる
- 99%の人は搾取される側に回る
- アメリカも得するわけではなく、得をするのはアメリカ発の無国籍企業
- 安倍政権は求められても居ない譲歩を繰り返すなど不可解な事前協議をしている
このような恐ろしい現実が、実際の条文に照らし合わせて語られる。この内容が本当であるならば、TPPに賛成する理由など何もない。TPPは全産業の全品目について関税を撤廃することを目的としているので、ありとあらゆる物にかかわってくる。それに合わせて国内法を修正しなければならない。山田元農水省は、アメリカ側から、日本に米韓FTA以上のものを要求する、とはっきりと宣言されたと言う。米韓FTAには非違反提訴というジョークのような条項があり、アメリカが利益を得るつもりで策定した条文によって思ったほど利益を得られなかった場合、条約に違反していなくても賠償を求めることができる。もう何でもありだ。日本にはそれ以上にアメリカに有利な条件を突きつけるつもりだということだ。
さらに、安倍首相はアメリカとの事前協議を終えて、「TPPが聖域なき関税撤廃が前提でないことがわかった」といってTPP参加を決めたが、アメリカは譲歩する気などさらさら無くそれどころか事前協議では、「自動車の関税をすべての関税撤廃の後にするがアメリカからの自動車輸入の手続き簡素化の枠を2倍に増やす」とか、「日本郵政が非公営であると確認されるまで新規のがん保険や医療保険を許可しない」、といった求められてもいない不可解な譲歩を日本が一方的に行ったという。アメリカと日本では立場が違い過ぎ、そもそも対等な交渉などできていないのだ。「聖域なき関税撤廃が前提でない」というのは、アメリカが守りたかった自動車の関税の話で、日本が守りたかったコメの関税の話ではないらしい。
憲法改正の話ももちろん大事だが、今しなければいけないというわけではない。TPPは今不参加を決めなければ取り返しがつかない。せっかく日本人が日本人の手で作った憲法に改正したとしても、憲法の上位に位置する国際条約であるところのTPPによって幾らでも修正させられてしまう。それでは、アメリカの意向で作られた現行憲法と何が違うのか。憲法改正の意味がない。
TPPが目指そうとしている選挙を経ないエリートによる強権的な世界政府への移行と言うコンセプトは、「052 ~今後40年のグローバル予測」でヨルゲン・ランダースが諦め交じりに語ったのと同じ方向性だ。前にも述べたが、賢い為政者による民主主義の否定など、「神様にでも政治やってもらえばいいよ」と言っているに等しい絵空事であり、前時代への逆行である。民主主義は完璧な制度ではない。だが、現状においては最もましな制度だ。もっとより良い制度が発見されて否定されるなら喜んで受け入れよう。しかし、何の発展もない民主主義の否定を私は良しとする事など出来ない。参院選ではTPP反対の党に投票する事に決めた。