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2014-07-27 0:43 by 仁伯爵

創造的思考のマニュアル化

近年、イノベーションと言う言葉がすっかりと市民権を得て、「なぜ日本にはイノベーティブな企業が出てこないのか」等と言ったように、様々な場面で語られている。そのメディアでの使用される頻度の高さゆえに陳腐化されてしまっている感さえある。それでも、日々直面する問題を後に続く人々がそれをことごとく真似するような今までにないスマートなやり方で次々と解決出来ればどんなに素晴らしいだろうと思わずにはいられない。そのようなイノベーションを起こすことができるのは、創造的な思考能力を持った一部のカリスマ経営者や天才学者、凄腕の技術者など、限られた人にしかできない特別な能力だと言う考えを、私たちは知らず知らずのうちに受け入れている。しかし、この本には、そのようなイノベーションを起こすような創造的思考は誰もが行うことができる技法なのだと説き、その方法の詳細がこれでもかと言うほどの例を挙げて述べられている。

制約の中で思考するという制約

著者は、制約を課せられた状況では創造的な思考が生まれやすいが、それはあくまで制約の中でのベストな解法なのであって、制約が無い場合にはベストではなくなるのだと強調している。ホワイトボードに油性マジックで書かれた文字を教室の中にあるものだけで消そうと思えば、その上からさらに油性マジックでなぞり、インクを液体に保つための溶剤が乾ききる前にふき取るという意外な解法が存在するが、そもそも教室の中にあるものだけ、という制約が無ければ管理事務所へ行きマジック消しの溶液をもらってくるのがベストな解法となる。制約の中で生み出された創造的思考がいつもベストな解法であるという誤解は避けねばならない。とは言うものの、私たちが生きる日常は制約に満ち満ちている。お金があれば簡単に解決できるが、そんな予算は無いなどと言う場面には誰しも直面したことがあるであろうし、自分の手持ちの手札のみを用いてこの人生と言うゲームにおいていかに幸せになるかと言う制約は人類共通のものと言えるだろう。誰しも自分の限界という制約に縛られていると考えれば、その中で創造的思考が行われやすくなるかもしれない。ともあれ、制約の中で創造的思考が起こりやすいというのは大前提に過ぎない。大事なのは制約の中でどうするのかと言う事だ。

心理的盲点の中に飛び込む

インサイドボックスと言う題名と共に、帯には「制約の中にこそ答えはある」とあるので制約の中で考えることを主題とした本であると期待して手に取った本書であったが、むしろこの本の肝は、心理的盲点のはずし方にあった。制約の中でどのように試行すればいいのかについて、以下の5つのテクニックのいずれかを使えば誰でも創造的思考ができると言うのが本書の主張である。

  • 引き算のテクニック・・・欠かせない物を省いてみる。
  • 分割のテクニック・・・・機能を分割したり、物理的に分割してみたりする
  • 掛け算のテクニック・・・構成要素をコピーして増やしてみる
  • 一石二鳥のテクニック・・一つの要素に複数の機能を持たせてみる
  • 関数のテクニック・・・・ある要素に連動させてほかの要素が変更されるようにしてみる

この5つのテクニックは、いずれも自分が合理的であると考える範囲を逸脱した選択を強制的に検討してみると言う行いだ。ばかばかしいとさえ思える案のメリットを考えてみたり、それをだれが欲しがるかを考えてみたりするのだ。普通に考えていても創造的思考は生まれない。では普通ではない思考とはどうすればできるのか。その効率的な答えが5つのテクニックであるのだと思う。イノベーティブな商品を目の前にして、なぜ自分が先にこれを思いつかなかったのか、と思ったことはないだろうか。材料がそろっているのに思いつかないのは答えが心理的盲点に入ってしまっていたからだ。5つのテクニックはそれを、自分の常識ではなく決まった手順に従うことで盲点に視点を合わせる技法であると感じた。本書がテクニックを適用してみる部分をランダムに選び、適用するテクニックも5つの中からランダムに選ぶことを推奨しているのはそのためだろう。盲点を外すことさえできれば、どこにどのテクニックを使ってもよいのだ。

創造的思考の実践可能性

本書にある、5つのテクニックは前述のとおり心理的盲点を外す方法論としてはとても有用であろう。しかしながら、抽象的な話題を扱う書籍にありがちなように、本書でも例示されたエピソードの中には少し強引なこじつけに感じられるところがちょくちょくあったが、納得できるところも多くあった。この本ではプロジェクトチームで商品開発をしているような場面での例が多かったが、一人でアイデアを練る場合などにもこの5つのテクニックは便利な道具になるだろう。盲点を暴き自分では思いつけないようなアイデアのきっかけを与えてくれるのはいつも他人や外部からの入力である。それを5つのテクニックに置き換えれば、一人でも思考の届く幅を大幅に広げることができそうだ。自分にも何かとんでもないことが思いつきそうだとワクワクさせてくれただけでも、この本を読んだ価値はあったと思う。そういう楽しい感覚は人生においてとても大事なことだと思うのである。何か面白いことを思いついてそれを実行に移したら、このブログでご報告できることもあるかもしれない。そんなことを考えさせてくれる面白い一冊であった。

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