それでも起こる射出不良
エクストルーダーの改良やヒートベッド、アームの交換など、コツコツと改造を続け一定の品質で出力できるようになっていた我が3DプリンターReplicator2Xであったが、ちょっとした変更で造形失敗を連発するという現象はいかんとも対処し難く頭を悩ませるところとなっていた。出力完了と出力失敗の天国と地獄を行き来するこの感覚はとても精神衛生上良くない。それでも失敗の経験を積み重ねることにより、原因の絞り込みができるよになってはいる。とはいえ、この経験とスキルはよそで応用できるだろうか。Replicator2Xの扱いがうまくなること自体にはたしてノウハウの蓄積という側面から見て価値はあるのか。ともあれ、大体出力の失敗は大体2つだ。
- 出力台からの剥離
- エクストルーダーからの出力不良
一つ目の出力台からの剥離は、ヒートベッドとノズル先端の間隔を調節して、それでもダメならカプトンテープを張りなおせば何とかなる。二つ目のエクストルーダーからの出力不足の方が複雑な問題だ。ヒートベッドとノズル先端の間隔が遠すぎても近すぎても出力途中でノズルが詰まる。平坦な形状の天井部分でインフィルのハニカム構造に橋渡しをするあたりでその傾向が顕著だ。さらに、ノズルの品質にも大きく左右される。ebayでReprap用のMk8のノズルが多数出品されているが、そのうちの一つを購入してみたところ、Mk7のノズルが届いた。仕方なくそれを使用していたが、MK7は先端部分がとがっておらず、平坦な面に穴が開いている構造なので射出されたフィラメントを押し潰す事になる。そのため一層目がヒートベッドに定着しやすいというメリットがあるが、設計よりも出力が大雑把になってしまう点と、ぬりぬりする形になるためノズルに負担がかかりやすく詰まりやすいというデメリットがある。仕方なくちょっと価格の高めのMk8を再度購入しなおしたところ、今度はちゃんとMk8のノズルが届いた。下の図の左のノズルがMK7、右のノズルがMK8である。
ebayでの外国からの購入が不安であれば、先日3Dプリンターブログをやっておられるレプカスさんが、3DプリンターパーツのWebショップ「参次元工房」をオープンし、その第一弾としてノズルの販売をされている。少々値は張るが国産の安心感があるだろう。
やはり行きつくエクストルーダーへの疑念
しかしノズルだけで射出不良が改善できるかと言えばそうでもない。出力台が高すぎたり低すぎたりしてノズルが詰まった場合、出力を止めてフィラメントをロードする手順を実行した後、手でフィラメントを押し込んでやるとするーっと射出が再開される場合が多い。つまり、手で押し込むくらいの強さをエクストルーダーが持ち得ていたならノズルは詰まらなかったのではないか。よしんば詰まったとしても、射出の再開が望めたのではないだろうか。そう、はやりエクストルーダーはステッパーモーターの力を十分に生かし切れていないのではないかと言う疑惑をぬぐいきれない。
そこで、前に記事にしたスプリング式のエクストルーダーのスプリングを強くすればいいのかと言えばそうでもないのだ。強すぎるスプリングは、フィラメントをステッパーモーターに強く押し付けすぎてしまい、ベアリングとギアに挟まれたフィラメントが下に送り出されず、ギアによってただ削られてしまうという現象を引き起こす。バネは前の記事で紹介した直径10.0mm x 長さ23.0mm x 太さ1.20mm のバネが最善だという結論は変わらない。
ギアの変更によるグリップ力の向上の試み
バネがダメならどこを改善すればよいのか。ebayでノズルを探していた時に、偶然エクストルーダー用のギアを見つけた。Mk8ギアを自称するその商品紹介によるとギアの直径を9mmへと小さくすることにより、なんと35%のグリップ力向上が望めるという。
このベンチマークが本当だとするならば、出力を安定させることができるのかもしれない。そう思った私はこのギアを購入し、さっそく取り付けてみたのだが、現状のエクストルーダーのままではフィラメントを送り出すことができなかった。3mm以上小さくなったその直径ではフィラメントが送り出される位置が少しモーター側によってしまい、ホットエンドの穴へ送り出すことができなかったのだ。
9mmギア用エクストルーダーの設計
現状のエクストルーダーではだめなのであれば、作ってしまえばいい。だって3Dプリンター持ってるんだもん。プラスチックの形を作るだけならお手の物だ。前回同様にReplicator 2X Extruder Upgrade
を参考にDesignSpark Mechanicalを使って改造してみよう。STL形式をDesignSpark Mechanicalで読み込むと、形は読み込めるのだがsolidになってくれないので編集ができない。そのため、寸法を確認しつつ一から書いてみる。
まず、スケッチモードの平面ビューにして、真ん中のY軸状に直線を引き、それを右クリックして”ミラー線とする”を選ぶと、その線を中心に左右対象の図形が描かれる。今回は左右二つのエクストルーダーが必要なのでこのミラー機能を使って設計していく。完成したファイルを左右反転させる方法を探したのだが、どうやらstl形式でもrsdoc形式でもDesignSparkには左右反転させる機能はないらしい。Makerwareで反転させられないかメニューをあさったがどうやらそういった機能は無いらしかった。なので設計の段階から左右作っておく事にした。
上の図で分かりにくいかもしれないが、真ん中の丸が直径9mmのギアを表している。溝が掘られている部分は直径7mmだ。その真横に水平にベアリングを当てると、垂直にフィラメントが落ちていくことになるが、今回はそれではうまくいかない。純正のギアよりもギア径が小さいからだ。ならば、ベアリングと、ギアの接点を上にもってきてフィラメントが斜めに射出されるように設計すればよい。ギアを表す円と、ベアリングを表す円からそれぞれ接線が点線で引かれておりそれが平行になっている様子がご確認いただけるだろうか。これが幅1.75mmのフィラメントを表している。そうやってできたのがこれ。
アームで使うベアリングは、オリジナルのを作るときに間違って買った幅4mm外径10mm内径3mmのベアリングを使えるようにしてある。使用するネジもオリジナルはM4のネジだが、今回はM3のネジ用に設計したので注意が必要だ。ベアリングはオリジナルの内径4mmの奴でも使えるがネジはM3でないとダメな設計だ。間違って買ったパーツにも行き場所を与えてやることができた。アームはこんな感じでOKだろう。
続いてベースの設計だ。これもギアが9mmなので入る穴をちょっと小さくするのだが、ギアの直径を小さくしすぎてステッパーモーターの軸に固定するためのイモネジがギアからはみ出しているので、穴は結局直径11mmにしなければいけなかった。そのほかは、フィラメントが射出される道を邪魔しないようにできるだけオリジナルに近い形を作ってみた。
出力して組み合わせてみたのが下の写真だ。左がオリジナルのギアとエクストルーダー、右側が9mmギアとそれ用に変更したエクストルーダーである。設計通り右側のエクストルーダーからはフィラメントが斜めに送り出されているのがご確認いただけるかと思う。
一応、作ったstlファイルをアップしておく。
改良型エクストルーダーの試験とその顛末
結論から申し上げるに、エクストルーダーから射出されるところまでは成功した。しかし、ギアの直径が短くなっていると言う事はギアの周も小さくなっていると言う事なのだ。同じモーターの回転数では押し出されるフィラメントの距離が短くなる。よって射出されるフィラメントの量が細く少なくなるのだ。結局ハードを変えただけの状態では上手く出力できなかった。ギアが小さくなった分を考慮に入れてモーターの回転数を上げる設定をすればいいのかもしれないが、今の私にはここまでが精いっぱいだ。上にSTL形式のデータのリンクを掲載しているので興味のある方はモーターの回転数や速度のパラメーターをいじって試してみてほしい。
3Dプリンターによる設計とプロトタイピングを越えて
結局失敗の終わった今回の試みだが、射出できるエクストルーダーへ至るまでには幾多のトライアンドエラーを経て最終的な失敗作へとたどり着いている。3Dプリンターによって手元でプロトタイピングができるので設計や開発の速度が上がるという話はよく聞く。しかし今回やってみて思ったのは、3Dプリンターの出力には時間がかかりすぎるし、不安定すぎると言う事だった。何をいまさらと思われるかもしれないが、CADでの設計や修正は比較的短時間で行うことができる。しかし、3Dプリンターの出力はかなり時間がかかる。その上、出力失敗のリスクも付きまとう。今回のエクストルーダーは、ベースとアームを同時に出力すると2時間程度の出力だった。それがすんなりいったとしてもストレスだが、台座の高さ調節が狂ってしまった場合、かなりの頻度でノズルが詰まる。仕掛けて2時間後に様子を見に行くと、途中で出力の止まった失敗作が目に入り、そこからノズルの掃除、ギアに詰まったフィラメントの掃除、台の調整、再出力を行う。この繰り返しは、かなりの根気を必要とする。
加えて熱融解積載方式で作ったABS樹脂の出力物は結構縮む。3Dプリンターで出力してちょうどいいように設計したデータで、金型を使った大量生産を業者にお願いした時、寸法が合わなくなる恐れがあるだろう。その前に、そもそも金型で作るときには抜けがいいように角度をつけなければいけない等、3Dプリンタで出力するときとは違う考慮がいろいろいるわけで、そもそも小規模で製造業をはじめようとする人のプロトタイピングに使おうと思ったら、それなりの修正定数を考慮に入れる必要がありそうだ。ともあれ、3Dプリンタの不安定な状態を脱出できるのではないかといろいろとパーツ交換などしてきたが、初期状態からは明らかに改善したものの、いまだ扱いに疲れる機械という印象から脱するには程遠い。ここいらでこの機体はこの程度のものなのだと諦めて、3Dプリンタのパーツを作成するという作業から離れ、自分の好きなものを作るというステップに進むべきなのではないかと、3Dプリンター購入10か月目にして思うのである。Makerbot社も最近は、ユーザーが作ったエクストルーダーで特許申請を行ったり、もうすでに広まってる既知の技術である自動キャリブレーション機構で特許を申請したりして、3Dプリンターの初期普及を支えてきた人たちを激怒させている。Makerbot社の新世代機のフィラメントは専用フィラメントになってしまってもいる。もう魅力が無いのだ。きっとこの機体は50年後、3Dプリンター普及初期の機体としてなんでも鑑定団で高値の査定がされるに違いない。それまで純正パーツもきれいに保管して、実働状態を保てるようメンテナンスにいそしむことにしたい。
今は、現れ始めた国産のいいスペックのデルタ型機Trinoや、KickStarterでちらほら見かける光硬化式の低価格機の方に関心が移ってしまいつつあるのだが、いかんせんこの機体Replicator2Xに多額の資金を投入してしまったので経済的理由からそちらに手を伸ばすことができない。しばらくはこれで我慢しつつ、面白いものを作るアイデアを思案していこうと思う。
4 件のコメント!
いつも細部まで考え抜かれた記事に感心しております。
試行錯誤された結果
>ここいらでこの機体はこの程度のものなのだと諦めて、3Dプリンタのパーツを作成するという作業から離れ、自分の好きなものを作るというステップに進むべきなのではないかと、3Dプリンター購入10か月目にして思う。
これには同感します。どれだけパーツを改造しても根本的な構造を変えない限りは、剛性・展延性などに限界があると感じてます。むしろ色んなタイプの材料を試したいと思う今日この頃です。
また、ご存知かもしれませんがg-codeで、ある程度ギアの速度はいじれるようです。
良ければ当方ブログをご参考ください。(g-code~extrusion profile~)
また、「参次元工房」を宣伝してくださりありがとうございます!
仁伯爵さんの優しさに感謝ですw
g-codeによるギア速度の調節は、トライアンドエラーを繰り返す元気が出たらまた試してみたいと思っています。
以前、レプカスさんで作製されていた溝を増やしたギアも
参次元工房のラインナップに加わらないかなーなんて期待してます!
この場を借りてお伝えするのは申し訳ないんですが・・・
今日ドライブギアをYAHOOショップに載せました。
仁男爵さんのご希望に添える品物か分かりませんけど、一応お伝えしておきますね~
ありがとうございます!
さっそく確認させてもらいますね!