2015-06-21 22:57 by 仁伯爵

3Dプリンターで使う素材

Makersムーブメントのバブルっぽい盛り上がりが一段落して、家電量販店から姿を消した3Dプリンターだが、その進化は着々と続いている。金属やカーボンファイバーにとどまらず、臓器や食品がプリントされたというニュースがたびたび控えめにWeb上に踊る。個人向けの3Dプリンターも、熱融解積層方式(以下FDM方式)ではABS樹脂、PLA樹脂に加え、ウッドライクフィラメントや、フレキシブルフィラメント、銅フィラメントなど、選べる素材の選択肢が増えてきた。光学式の3Dプリンターもぼちぼち個人でも手が届くようになってきており、それを手に入れれば、紫外線硬化樹脂(以下UVレジン)が選択肢に加わる。UVレジンは、びちびちギャルたちのネイルアートやアクセサリー作りでおなじみであるが、FDM方式で使われるフィラメントに比べてちょっと価格がお高めである。その上、レシピが製造各社の企業秘密となっており成分がよくわからない。そんな良く分からないUVレジンについて、先日手に入れたプロジェクター投影型光学式(DLP式)の3DプリンターであるところのLittleRPで使う事を目的として色々調べてみたので忘れる前にここに書き記しておこう。

SLA式とDLP式

光学式の3Dプリンターには大きく分けて2種類ある。光硬化樹脂に光を当てる光源として本体にレーザーを照射する仕組みを持っているSLA式と、本体には光を発する仕組みを持たず市販のプロジェクターを光源として利用するDLP式である。一般的にプロジェクターよりレーザーの方が強い光を照射でき、DLP式はその光の弱さを補うために照射する範囲を集中させる必要があり、造形できる大きさもSLA式に比べて小さくなる。それでもなおDLP式は光が弱いので、SLA式用のUVレジンとは異なった商品ラインナップが用意されていたりする。

LittleRPで使えるレジン

LittleRPはプロジェクターによって紫外線を照射するDLP式である。LittleRPでは、MakerJuice社のSFレジンfor LittleRPと、MadeSolid社のLittleRP RED レジンの使用が推奨されている。この2社はその他にもレジンのラインナップがある。大まかに、柔らかいレジン、硬いのが売りのレジン、そのほか特殊用途のレジンに分かれる。まとめると以下の通りだ。

MakerJuice社

SFレジン 柔らかいレジン
SFレジン for Littlerp 顔料を加えた柔らかいレジン
SFレジン for Form1 Form1に最適化された柔らかいレジン
G+レジン とっても固いレジン

MadeSolid社

V2 MSレジン 柔らかいレジン
Littlerp REDレジン 柔らかいレジンに顔料を加えたレジン
VOREXレジン ものすごく頑丈なレジン
CAST SOLIDレジン 金属の鋳造に使えるレジン

MakerJuice社のSFレジンMadeSolid社のV2 MSレジンが柔らかいレジンである。どちらも別途LittleRP用が用意されている。Littlerp REDレジンV2 MSレジンに深い赤の顔料を加えた物だ。LittleRP用のレジンと、ノーマルのレジンでは何が違うのかというと、MadeSolid社に問い合わせてみたところLittleRP用のレジンはより光を吸収しやすいように顔料を多めに加えてあるのだと言う。そのため、MadeSolid社LittleRP用のレジンはより紫外線を吸収しやすい深い赤(deep red)しか用意されていない。MakerJuice社のSFレジン for LittleRPについても同様に顔料を多めに入れてあるのだと思われるが、こちらはバラエティーパックに各色セットの物が用意されており、単色でも赤以外の各色が取り揃えられている。MakerJuice社では顔料だけの別売りも行っているので、好みの色が無ければ顔料を追加して色を作ることができる。顔料はレジン全体の2%以下にすることが推奨されており、それ以上入れると硬化不良を起こす。また、顔料を追加すると硬化に必要な露光時間が長くなる。

より固いレジンは、MakerJuice社のG+レジンMadeSolid社のVOREXレジンである。両方ともメーカーに問い合わせたところ、LittleRPでも使用できるとの回答を得た。ただし、MakerJuice社のG+レジンでは顔料を追加して使用し露光時間を長く設定することが使用の条件として提示された。MadeSolid社のVOREXレジンでも、LittleRPで使用できるのはラインナップ中の黒とオレンジのみ使える、という回答であった。VOREXレジンは、古い名前をStrongレジンといい、MadeSolid社の推奨設定のページではS Resinと表記されている。S ResinとVOREXレジンは同じものである。どちらもトンカチで殴っても割れないのが売りだ。

MadeSolid社のCAST SOLIDレジンは、燃やしても灰が一切残らないように設計されており、ロストワックス方式の金属鋳造に使用できる、以前はFIRE CASTレジンとして販売されていたものを、顧客からのフィードバックという名の苦情を聞き入れて改良したものがCAST SOLIDレジンであるとのことだ。MadeSolid社にFIRE CASTレジンとCAST SLIDレジンの何が違うのか聞いてみたところ、CAST SOLIDレジンは灰が100%残らないようになり、より低粘度になったので扱いやすく鋳造の失敗の確率が格段に低くなっているとの回答であった。

出力した造形物の洗浄と仕上げの硬化どうすんの?

UVレジンは液体であるため、造形物ができた直後はべっちゃべちゃに濡れている。よって洗浄しなければならない。さらに、FDM方式とちがって出力直後にはまだ完全硬化しておらずふにゃふにゃである。そのため完全に硬化するまで時間をおいてやる必要があるのだ。このあたりをどうするのがベストなのか、MakerJuice社に聞いてみた。

MakerJuice社のおすすめは、イソプロピルアルコール洗浄(以下IPA洗浄)を行い、その後水洗いして、紫外線ライトにあててポスト硬化を行い、その後またイソプロピルアルコール洗浄し、再度水洗いをするのが良い、との事であった。

ポスト硬化には、紫外線ライトを使うのだが、一口に紫外線と言っても波長の長さによって大体4つに大別されるらしい。

C波(UV-C) 200~280nmのものすごい紫外線。生物のDNAを破壊するので殺菌などに使用できる。勿論人間のDNAも破壊してしまうので有害。太陽光に含まれるぶんは通常はオゾン層でシャットアウトされるので地表には届かない。
B波(UV-B) 280~315nmのこんがり日焼けするくらいの紫外線。浴びすぎると害があるが、日焼けする程度なら無害。
A波(UV-A) 315~380nmと波長が長めなので雲なども平気で通り抜けてくる。地表にたくさん溢れている紫外線。お肌の奥まで届いて老化現象を促進してしまう美容の敵。
青っぽい可視光線 380~420nmこのあたりは可視光線なので紫外線ではない。ブラックライトなどによく利用される。UVレジンはこのあたりまでの光なら固まる。

とまあ、要するに420nmより短い波長の光であれば固まるよ、とのことだった。一般的なUV LEDやUVランプは物にもよるが370nmあたりが多いので問題なく硬化に使えるはずだ。ただ、安いネイル用のランプなどは紫外線ランプと謳いながら420nmより長い波長の可視光線しか出していないものもあるらしいので、使用するランプがどの波長を出しているのかチェックしてみるといいだろう。IPA洗浄し水洗いして表面に残った余分なレジンを洗い流した後でライトを当てると割と短時間で硬化させることができるはずだ。硬化させた後、さらに表面の固まっていないレジンを再度IPA洗浄し水洗いすれば完全硬化した造形物の表面とご対面できる。

レジンの世界

UVレジンはコンシューマー向けの光造形3Dプリンターが売れ出してからだいぶ価格が低下してきたと聞いたが、まだまだ3Dプリンターのコストとしては割高感がある。これから安くなってくれることを祈るのみである。液体でいろんなところに付着しがちだが、とても有害で目に入ると失明の恐れがあり、口に入ると生殖機能を破壊する恐れがある。直接皮膚に触れても炎症を起こすので、手袋とゴーグルは必須だ。紫外線も、見過ぎると目の老化を早めるし、直接肌にあてなくても見るだけで日焼けするので、百難隠したい美白女子はゴーグルにUVカットのフィルターを張るなどした方が良いだろう。紫外線は目に見えないので可視光線なら耐えられないほどの強い光を直視してしまっていることがある。UVライトは眩しくなくても直視してはいけない。イソプロピルアルコールに関しては、一応エタノールより有害と言う事になっているが、こちらは病院の消毒などにもよく使われているらしく、特に神経質に健康被害を気にするほどの凶悪さは無いらしい。でも一応有害と言う事なので飲まないようにしたい。

特に断りのないレジンはSLA方式の3Dプリンターで使い、顔料を加えればDLP方式の3Dプリンターでも使えそうだと言う事が分かった。このあたりはメーカーに問い合わせただけで実際に試したわけではないのでもし、期待通りの結果が得られなかった場合はレジンメーカーに問い合わせていただきたい。いろいろ試してみるにはレジンはまだまだ高価すぎるのだ。成功率だけを気にして失敗したくなければ、光の吸収率が良く扱いやすい深い赤のレジンを使うと失敗が少なくて済みそうだ。ともあれこれからいろんな人がいろんなUVレジンで作った作品をWebにアップし始めるだろう。そうなればノウハウの交換なんかも活発になってくるだろう。日本でも盛り上がっていくことを期待したい。ビバ、レジン。

4 件のコメント!

  • 初めて書き込みさせていただきます。いつも読ませていただいています。

    私もLittleRPを入手して様々トライしています。一通り思い通りに出力できるようになりましたが、苦しんでいることが一つあります。それは紫外線硬化です。このページのリンクからはアマゾンでE26口金の紫外線ライト用のスタンドが紹介されていますが、どの程度のW数のライトが適切でしょうか。現状、天日干しにしていますがプヨプヨ感が残っていますので、紫外線ライトを探しています。ところが、W数が様々すぎてどれが適切なのかが分かりません。「大は小を兼ねる」で最も大きなものをセレクトするというイメージでも良いものでしょうか。経験にもとづく感覚的なもので構いませんので、ご教示いただけれると幸いです。

    • コメントありがとうございます。

      ポスト硬化に使用する紫外線ライトですが、記事にもありますとおり420nmより短い波長の光の物であれば論理上硬化するはずです。ただ、経験上それほど劇的な硬化が得られた経験はなく気休め程度かと思います。

      VOREXレジンやG+レジンなどの硬さを売りにしているレジン以外は、硬いゴムのような質感が完成形です。それ以上は硬くはなりません。PLAのようなカチコチの硬さにはなりません。

      参考になりましたでしょうか。今後とも、照る青メイツとして照る照る坊主の青空をどうぞよろしくお願いいたします。

      • ご回答頂きありがとうございました。

        天日干しの方が、紫外線ライトよりも硬化の程度が良かったので、W数により何らかの違いがあるように思います。こちらでもいろいろトライしてみますし、何か分かりましたら、こちらでもシェアしたいと思っています。

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