3Dプリンターにぶつける欲求
実は、一昨年あたりから急激に3Dプリンターが欲しくて欲しくて仕方なくなっていた。3Dプリンターとは言わずと知れた、コンピューター上で作成された3Dのデータを基に、3次元の立体を出力してくれる夢のような機械のことである。3Dプリンターの技術自体は古くからある枯れた技術だが、その特許のいくつかが期限切れとなり、3Dプリンターを今まででは考えられない低価格で家庭用として販売するベンチャー企業が現れたということが巷で騒がれ始めたのだ。自分の机の上でプラスチック製品が作れる!欲しい!寝ても覚めても3Dプリンターのことで頭がいっぱいだった。まるで恋する少女じゃないか、などとどこかの小説の主人公のようなことを考えたりしながらも、3Dプリンターを手に入れて何を作るのか?という根本的なことに答えが出ていなかった。何も作りたいものがない上にCADの使い方も知らず、モデリングもできないのに3Dプリンターを手に入れてどうするのか。
苦悩の末に私はその答えを得た。3Dプリンターで何を作りたいのかが思いつかないのは、3Dプリンターを所有しておらず、使ったこともないからだ。3Dプリンターの何たるかを知らずしてその先があるわけがない。それを知るには手に入れるしかない。3Dプリンターを手に入れ、使い倒していくうちに、「あれ、これがあればあれができるじゃん!」というひらめきが下りてくるのだ。という理屈を思いついた。理屈と膏薬はどこにでもつく。しかし理屈も膏薬もつけたのは自分である。私は自分自身がつけた理屈を己の責任において信じるのだ。ただ前へ、引きずってでも前へ進むのみなのである。
3Dプリンターの個人輸入という名のネットショッピング
かくして私は3か月待ちの末に2013年9月、ついにMakerBot社の3Dプリンター「Replicator2X」を手に入れたのだ!Replicator2Xのポイントは、なんといっても2色刷りができることである。エクストルーダー(溶かした樹脂を押し出す装置)が2つ付いているので2色の樹脂を交互に積み上げていくことが可能なのだ。片方を水溶性の樹脂にしておけば、造形中に倒れないようにつけるサポートの部分を水溶性の樹脂にして、出力完了後に水に溶かしてしまうという使い方もできる。これにより、より複雑な形状の造形物も出力可能なのだ。ちなみに記事のトップの画像はReplicator2である。Xが付いていないのはエクストルーダーが1つしかついておらず1色のみの出力であることを示している。しかしその分価格は抑えられている。
購入に際しては、国内の販売代理店を通すとやたら高いのでMakerBot社のHPから直接購入した。日本からの注文でも問題なく応じてもらえた。支払はクレジットカードで行ったが、メールで身分証明書の提示を求められたので日本の免許証をスキャンして返信したところ問題なく購入ができた。関税は配送してくれたFedexから到着後に別途請求されるので支払えばいい。国内のネットショッピングとさほど変わらぬ手間で個人輸入ができてしまうのだ。インターネット様様である。こうなると益々、10万円上乗せの販売代理店の存在意義が危うくなる。支払がbitcoinでできたりすると、もっと簡単になるだろう。それはまた別の記事で書こうと思う。今は3Dプリンターの話だ。
3Dプリンター開封の儀
3Dプリンターのダンボールを開けてついに本体とご対面である。まず、語るべきはACアダプターのでかさだろう。何しろでかい。そして電源のジャックはサーバールームでよく見かけるアースを含めた3本式なのでアダプターを付けて2本式に変換する。アースはつなぐとこがないのでほっておく。ACアダプターの裏を見ると、100V~240V、50Hz~60Hzとの記載がある。日本の家庭用電源にそのままさしても大丈夫だ。
配送時の振動から保護するためのプラスチック部品を取り除く。これらは3Dプリンタで出力されているのが分かる。粋な演出である。
正面の扉の取っ手を取り付ける。正面の扉の淵には紙屑が細かくついていて、さらに扉がきっちり閉まらない。アメリカのモノ作りが終わったといわれるゆえんがこのあたりに出ている。重要な部分の固定が結束バンドでなされていたり、ケーブルを保護する絶縁布の切れ端がほつれまくっていたり、細かいところが残念なのだ。だがこれくらいでくじけてはいけない。3Dの造形物が出力できればそれでよいのだ。
フィラメント(造形物を形作る樹脂)を通すチューブをとり付ける。
フィラメントを取り付けて管の中に通す。2色つけることができるのがこの機種のいいところである。
先ほどの大きなACアダプタを本体につなぎ、上部のクリアカバーをかぶせれば完成だ!
電源を入れると、ピコピコ音と共に液晶に自己紹介メッセージが現れる。かわいい。
先ほど液晶画面でMボタンを押せと指示されていたが、その指示に従っていくと台座の水平出しや、フィラメントのロードを行うように導いてくれる。下の画像は初めてフィラメントをロードした時の画像である。ロードしたのは白と黄色のABS樹脂のフィラメントだが、青いフィラメントが出ているのは、おそらく最初に配送時のポジションを固定するパーツを出力したフィラメントが残っているためと思われる。これは憶測だが固定パーツの出力を以て製品の出荷前のテストを兼ねているのだろう。
初期状態で、付属のSDカードに3Dデータがあらかじめいくつか入っているのでテスト出力してみる。せっかく2色出せるので白い卵を抱えた黄色いドラゴンを出力してみる。
さすがに3Dプリンターは世に出始めたばかりので、このあたりが限界なのだろう。思ったよりも出力が荒い。直線はきれいに出力できるが、局面の出力がとても苦手なようである。2色で出力すると、出力していないほうのエクストルーダーからフィラメントが漏れて意図せず干渉してしまっている。白の部分の外に黄色が、黄色の部分の外に白がついてしまっている。これは手でむしればとれるのだが、まだまだ粗削りだなぁと感じた。
今回の出力にはRaft(土台)をoffにして出力したので底面が台座にくっついて取りにくい。Raftをonにすると接地面が少なくなり、剥がすのも容易になる。台座から造形物を剥がすのはカーボンはがしヘラを使うと台座のカプトンシートを傷つけず、造形物もへこませることなくきれいに剥がすことができる。
因みに、小さな出力物だが出力完了までには1時間9分かかった。出力時の設定でもっと精度を上げた出力も可能だがその分出力時間も伸びることになる。
この開封の儀のあと、長時間出力するとフィラメントが出なくなる症状や、造形物が造形中に台座からはがれる症状に見舞われて頭を悩ませたが、現在ではそれらを見事にクリアして現在に至る。3Dのデータは自分で作成しなくても、MakerBotのコミュニティーサイトであるthingiverseに投稿されたさまざまな3Dデータをダウンロードして使うことができる。わたしもRaspberry Piのケースのデータをダウンロードして出力したものを使用している。
しかしながら出力する環境を手に入れた今、自分で3Dデータを作りたくなるのが人情だ。現在は無料3D CADであるところのDesignSparkを使用して自分で作ったデータを出力することができるようになり、それがちょー楽しくてより使いこなすべく勉強中だが、その話は次回に譲ることにする。