頭の中の形を、プラスチックで固めるために
前回までに3Dプリンターで造形が安定して出力できる環境を整えた。3Dプリンターで先人たちが作ってくれた3Dデータを使用して出力していると、自分でも3Dデータを作ってみたくなってくる。たとえば、結構に高価な商品を購入し使っていると、プラスチックのツメの部分などが劣化して破損してしまい、ここさえ治せればもっと使えるのに、などと思った経験はないだろうか。プラスチックが折れてしまったがために不便を強いられるが、その部分以外はまだまだ使えそうだといった場面にはよく出くわす。さらに、ここのプラスチック部品がよく割れるのでもっと分厚く作ってくれないかな、などと思った経験もおありだろう。
そんな時には、頭の中に明確に欲しい形がイメージされているはずだ。それをプラスチックを溶かして固めて手にすることができればどんなに素晴らしいだろうか。今まではそんなことは業者に頼まないとできなかったが、今では3Dプリンターさえあれば家庭でできるのだ。そして、私は3Dプリンターを所有している。これはもう、3D CADの使い方を習得するしかないだろう。
最適なる3D CADを求めて
さりとて、3D CADソフトは業務用のものが多く、購入しようにもとても高価だ。Amazonの3DプリンターストアでCADソフトを物色してみたが、とても高価で手が出なかった。いくらシーランド公国の貴族であるといえども、私は熟慮して買い物をするのである。
上記以外でも、操作方法の書籍が豊富なSolid Worksというソフトもあるようだが、これも業務用でとても高価だ。まずはゼロからの勉強と3Dプリンターでの出力用なので業務での使用に耐えるほどの構成のは必要ない。CADとしての基本的な操作とstl(Standard Template Library)形式での出力に対応していればそれで良い。この条件を満たすフリーのCADは無いだろうか。検索サイトで検索しまくったところ、2つ見つけた。
123D Designは、Autodesk社が提供しているフリーの3D CADだ。シンプルな作りで各種3Dプリンターでの出力にも対応しており、他にも123Dシリーズのソフトウェアも充実しており連携させれば色々な角度から撮った写真から3Dデータを作ったり、粘土をこねる要領で有機的な3Dデータが作れたり楽しそうが、MACにしか対応していないソフトがあったり、Webソフトとしてのみ提供されているソフトがあったりするので注意が必要だ。
DesignSpark Mechanicalは、RS社が提供するフリーの3D CADソフトである。DesignSpark PCBという電子回路基板設計用のCADソフトもある。設計した成果物を作成する場合の見積もりをソフト上からそのまま依頼できてしまうらしい。ソフトウェアを売るのではなくそちらで収益を上げるというビジネスモデルであるため、これらは無料で全機能が利用できる。設計初心者の私にはよくわからない色々な機能がついているが、業務用っぽくてかっこいい。対応するファイル形式も多くて素晴らしい。もちろんSTLも出力できる。せっかくなので機能は多いに越したことはない。大は小を兼ねるのだ。今回はDesignSparkを採用して勉強していこうと思う。
DesignSpark Mechanical公式サイトの手ほどき通りにやってみた
まず、DesignSpark Mechanicalの公式サイトからプログラム本体をダウンロードして、インストールし、ユーザー登録を済ませると、すぐに使い始めることができるが、何をしてよいのやらさっぱりわからない。しかし、恐れることはない。公式サイトに初心者向けの手ほどきが用意されているのだ。
この通りに穴の開いた角の取れた立方体と、突起物のついた立方体を作ってみると基本的な操作が身に付く。さっそくやってみて、STL形式で出力し3DプリンターReplicator2Xで出力してみた。
突起と穴のサイズが同じで角がとってあるので合体させることができた。突起と穴を挿したり抜いたりしていると気持ちがいい。ぴったりとサイズがあっておりABS樹脂の弾力性も相まって意外としっかりくっつく。たくさん作ればブロック遊びができそうだ。
PCの画面の中で作った形状がABS樹脂で形を成し、そのまま目の前に現れる。これは楽しい。ものすごく楽しい。
大昔の本の中のパズルを現実世界に引っ張り出す
では、練習に簡単そうな、でも面白い形のものを3Dデータにしてみよう。海外の本だが”Puzzle old and new“という本がインターネットアーカイブで公開されていた。1893年の本なので著作権も切れており、自由に閲覧できる。この本の106頁にあるパズルを作ってみよう。このパズルの種明かしが139頁と140頁に出ている。この形を作ってみる。
Puzzle old and new(1893)139頁
Puzzle old and new(1893)140頁
まず、DesignSpark Mechanicalを起動し、図.A-1の①”スケッチモード”をクリックし、②”矩形”を選択する。その状態で長方形を平面に描くことができるようになる。スケッチモードでは、2Dの描画ソフトと同じような使用感である。これで、③18mm x 60mm の長方形を描く。
図.A-1
続いて、真ん中に穴をあける。図.A-2の① 4mm x 18mm の長方形をど真ん中に描く。
図.A-2
いよいよ平面だったこの形を立体にする。いよいよだ!図.A-3の① “3Dモード”を選択し、②”選択”を選択する。その状態で③大きい長方形と小さい長方形の間の部分をクリックして選択する。
図.A-3
さあ、ついにここで立体が登場する!図.A-4 ①”プル”を選択する。そして!②画面上でマウスを上へドラッグすると、なんと平面が上へ押し出されるのだ!立体的だ!4mmの分厚さを指定しておく。
図.A-4
一つ目のパーツは大体できたのでひとまず置いておく。これを基本形にして、二つ目のパーツを作るのでこれをコピーする。左上の”ファイル”メニューから”新規作成”を選択し、”デザイン”を選択する。新しいデザイン作成画面が開くので下のタブから前のデザインを選択し一つ目のパーツ作成の画面に戻ってくる。そこでキーボードから”Cttl + A”を押し全てを選択する。その状態で”Ctrl + C”でオブジェクトをコピーする。さらに、図.A-5 ①新規作成で開いた二つ目のパーツ作成タブに戻り、”Ctrl + V”でペーストする。②”スケッチモード”を選択し、③矩形を選択する。そして、オブジェクトの上面で④穴の真ん中から外側へ7mm x 4mm の長方形を描く。
図.A-5
先ほどは平面から立体を引っ張り出したが、今度は立体を押し潰してみる。図.A-6 ①”3Dモード”を選択し、②”選択”を選択する。その状態で先ほど作った7mm x 4mm の長方形を選択する。
図.A-6
つづいて、図.A-7 ①”プル”を選択し、②作製画面上でマウスを下へドラッグし4mmへこませる。厚みが4mmのオブジェクトを作っているので、4mmへこませるとその部分は消える。これで二つ目のパーツがほぼできたので、先ほどと同様に、2つ目のパーツをコピーし、新規作成であたらしい3Dデザインを開きペーストする。
図.A-7
ペーストされたオブジェクトの先ほど広げた穴の反対側に図.A-8 ①”スケッチモード”を選択し、②”矩形”を選択して、4mm x 3mmの長方形を描く。
図.A-8
図.A-9 ①”選択”を選択し、②”3Dモード”を選択し、先ほど作成した4mm x 3mmの長方形を選択する。
図.A-9
図.A-10 ① “プル”を選択して、②オブジェクト作製画面上でマウスを下へドラッグして4mmへこませて穴を広げる。これで三つめのパーツもほぼ出来上がった。
図.A-10
この状態で3DプリンタでABS樹脂を使って出力しても組み上げるのに角が引っ掛かりうまく組み上げられない。そこで、これまで作ったパーツの角をとってみる。二つ目と三つ目のパーツの隙間の部分は組みあがった時の見た目を考慮して丸めず置いといて、他の角はすべて丸める。
図.A-11 ①”選択”を選択し、②”3Dモード”を選択する。その状態で③丸めたい辺をキーボードの”Ctrl”キーを押しながらクリックして選択していく。裏側の隠れている辺を選択する場合は、マウスのホイールでドラッグするとオブジェクトを回転させることができるので裏側も丸見えだ。
図.A-12 ①”プル”を選択し、②”フィレット”を選択する。フィレットとは、指定した値を半径とする円の弧で指定された辺を丸める機能である。この状態で、③オブジェクト作成画面でドラッグして、半径1mmで丸める。
これで、パズルが完成した!”ファイル”メニューから”名前を付けて保存”でSTLを指定して保存する。それを3Dプリンターで出力したら、パズル一つ目の出来上がりだ!
角を丸めたことで、穴に通しやすくなっている。どう組み合わせればいいのかはPuzzle old and newを読んでいただければいいのだが、読む前にぜひチャレンジしてみてほしい。長くなってしまったのでもう一つのパズルは次回に譲ることにしたい。頭の中のイメージがPCの中に現れるのは今まで多く体験してきたが、PCを飛び出して現実世界に現れる体験はとても新鮮な名状しがたい爽快な感情が湧き上がるものだ。ぜひ、皆様にも体験してほしい。自分で作るのはめんどくさいけど、3Dデータが欲しいという方は、銀仁堂でSTL、OBJ、DXF形式のセットを販売しているので、ぜひこの機会にご購入してみていただきたい。