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政治経済
2016-06-26 1:18 by 仁伯爵

以外と控えめだった暗黒の金曜日

昨日、英国にてEU(ヨーロッパ連合)から離脱すべきかどうかを問う国民投票が行われ、大方の予想に反して英国民の過半数がEUからの離脱を支持した。開票が進み、日本時間の午後に投票の結果が判明し、ポンドやユーロ米ドルが大幅に下落するなど為替が混乱し、日経平均も暴落した。夕方に欧州市場、ロンドン市場が開くと欧州株も続落し、その後夜に開いたNY市場でも株が下がった。この日、世界中のマーケットから215兆円の富が失われたという。しかしながら、リーマンショック時の世界中の混乱に比べるといろいろと事前に対策が打たれていたこともあってか、混乱は最小限にとどまっているように思う。かのジョージ・ソロスはイギリスがEUを離脱したら、ポンドは20%下落するだろう、と発言していたが実際には10%ほどしか下落していない。各国当局が協調してドル売り介入を行うのではないかなどの憶測が飛んでおり、週末が明けて月曜日にマーケットが開いてからが祭りの本番なのかもしれない。

出ていくことを決めた途端、追い出される大英帝国

キャメロン首相は、EU残留を訴えて自らもEU残留に票を投じたが、その意に反してEU離脱が決定してしまった。離脱交渉をEUとの間で行っていくにあたって、自分が船長としてはふさわしくないとしてキャメロン首相は辞意を表明した。10月までに次の首相を決めるという。そんなイギリスに対してEUは冷淡である。国民投票の前から、離脱と言う結果が出たらきっちり出て行ってもらうという姿勢を明確にしていた。離脱が決定した今も、各国首脳がイギリスの離脱に対し失望の念を相次いで表明する事態となっている。European Commission – PRESS RELEASES – Press release – Joint Statement by Martin Schulz, President of the European Parliament, Donald Tusk, President of the European Council, Mark Rutte, Holder of the Presidency of the Council of the EU, Jean-Claude Juncker, President of the European Commission”>EUはイギリスを引き止めるでもなく早く出ていけと言わんばかりの共同声明を出した。キャメロン首相が次の首相を3か月後に決めると表明したことに対しても、もっと早期に次の首相を選出して早急にリズボン条約第50条に基づく交渉を開始するべきだとの声が大勢を占めている。EU創設にかかわった6か国の外相は早急に離脱交渉を始めるべきだと口をそろえ、ユンカー委員長もできるだけ早い離脱交渉の開始と、イギリスの欧州委員の解任を求め、それを受けてイギリス人の欧州委員ジョナサン・ヒルが辞任した。EU統合の邪魔者だったイギリスを引き留めるものは、現時点では誰もいない。イギリスに対してEUは苛立ちを隠さない事態となっている。

通貨ユーロを導入せず、国境検査なしで国境を越えることを許可するシェンゲン協定にも加盟しないなど、EU統合の妨げとなってきた英国に対する苛立ちが離脱によって解消され、EU統合がスムーズに進むのではないかと言う見方もある。しかしその一方で、EU内の他の国々でもEU懐疑派はその勢力を伸ばしている。EUでしょうもないロビー活動が繰り広げられた結果、しょうもない規制が次々に課せられることにうんざりしている人々が少なくない。エリートたちの理想の隙間にロビイストが漬け込んだ結果、庶民の暮らしは圧迫され続け、エリートvs庶民の構図がくすぶり続けている。そこに流れ込んできた難民問題にEUは非常に脆弱な状況に置かれている。ギリシャ危機の時にギリシャをEUから離脱させようと言う話が出たとき、EUには離脱の仕組みがないのだと言う話で救済しかないと多額の資金がつぎ込まれたが、今回、イギリスがEU離脱への道筋を作ってしまったことにより、他のEU懐疑派を抱える国々がドミノ倒し的に離脱に動く可能性が懸念されている。

離脱をめぐる多次元の対立軸

BBCのEU離脱国民投票の特集サイトを見ると、スコットランドと北アイルランドは、残留派が勝っている。イングランドとウェールズでは離脱派が勝った。特にスコットランドは残留派が62.0%と明確に残留が多数派である。これを受けてスコットランドは2度目のイギリスからの独立の国民投票を行って独立し、独立国スコットランドとしてEUに加盟しようと言う動きが強まっている。スコットランド、北アイルランドvsイングランド、ウェールズと言う地理的な対立軸が一つとして浮かび上がる。

もう一つ、若者には残留派が多く、高齢者には離脱派が多かったと言う話もある。高齢者にはかつての大英帝国のプライドを持った人が多く、自分たちをヨーロッパの一部とは感じておらず、国家主権を手放してEUに統合されることを良しとしない人たちがたくさんいると言うのだ。若者はそのような価値観からは解放されており、よりヨーロッパ寄りの価値観を持っていると言う。若者vs老人の対立軸でみると離脱派シルバーデモクラシーであるともいえる。

さらに、高学歴や高収入の人たちの間では残留派が多く、庶民には離脱派が多かったと言う話もしきりに語られた。EUに加盟していることの重要性を訴えたのに対し、庶民は入ってきてしまった移民や難民との軋轢にすり減ってしまっており、住民が怒っていることにエリートが気づけなかったという。選挙で有能な政治家を選び出す事が不可能なことをいやというほど体験してしまったこの世界において、どうやって民主主義を体現するかと言うことが模索されつづける中で、優秀なエリートに任せてしまうと言う道が選択肢になり得ない事をどうしようもなく体現した対立軸としてエリートvs庶民の対立が浮かび上がっている。

国家破壊兵器としての直接民主主義

スコットランド独立の話は地理的な話として分かりやすい。しかしここで、ロンドンがEUに残留するためにイギリスから独立するという署名がロンドンで始まっており、13万の署名が集まっていると言う。可能性は極めて薄いが、これが実現すれば、イタリアの中のバチカンのようにロンドンが独立都市国家になってしまうかもしれない。国内を2分する議題について国民投票を行い、独立派51.9%、残留派48.1%という僅差の結果になったら、無視できないほど大きなマイノリティーを国内に抱えてしまう事になる。その対立は最早国を割らなくては収まりがつかない。EU離脱を問う国民投票自体をやり直そうと言う話まで飛び出ているが、僅差で結果がひっくり返ったとしても僅差である限り何の解決にもならず、さらなる混を増す事になりかねない。

領土を持たない国家の形

こういった対立軸は地理にとらわれない。イングランドの中でも残留がいいと判断した人は過半数に届かないまでも半数に近い規模で存在している。家族の中でも離脱派と残留派に分かれると言うケースがあったとと聞いた。そしてそれはおそらく珍しい事ではないだろう。同じ思想の人が大移動して国を作る等と言う事は現実的でないので、国の方針を決めるなら異なる意見を持つ人々の間では、多数派の意見を採用する。これが最大多数の最大幸福だ。最大多数の最大幸福は主権が民にある民主主義を実行する現在考えられる一番いい方法として採用されている。民主主義を実現するための方法が最大多数の最大幸福で、それを実行する手続きが選挙であるが、選挙がただの人気投票に成り下がり、タレント議員と世襲議員ばかりになって機能不全に陥ることを阻止できないとしたら、国民投票が国家を分断する装置としてしか機能しないとしたら、民主主義を実行する方法として選挙の次には何が来るだろうか。

国家とはその成立の要件として、国民がいることと国土があることが求められるという。もし国土が無い国家の存在が許されるとするならば、EU残留派が今のうちにスコットランドに引っ越すなどと言う労をとる必要がなくなる。例えば、イギリスの中にEUに所属する人と、所属しない人が同時に存在する世界。何処にいても所属する国家を選べる世界。いつかそんな世界が来れば、それこそが本当の自由と本当の民主主義と言えるのではないだろうか。多少荒唐無稽ではあるものの、ヨーロッパ統一のような社会実験のような形で、国土のない国家という実験がいつか始まることを心待ちにしている。そうでなければAIに統治してもらう未来しかない。

ヨーロッパ統合と言う悲願

EUは歴史的に戦争を繰り返してきたヨーロッパ各国が、2度の世界大戦で近代兵器が使われて焼け野原になった後、ヨーロッパ人同士で争わずに済むように統合しようと言う流れで始まった。現在は関税の撤廃やユーロへの通貨統合など、経済統合を先行して進めているが、最終的には政治統合も軍事統合もなされる予定だ。統合すれば平和になるなんて夢のまた夢で、最初から無理があったのだ、と言う声がちらほら聞こえているが、必ずしもそうとは言えない。かつて日本は戦国時代だった。織田がつき、羽柴がこねし天下餅をすわりしままに徳川が喰らった後も、各藩には殿様が居て、軍事も経済も法体系も別々だった。藩を出入りするには関所を越えるためのパスポート(通行手形)が必要で、たくさんの国がひしめき合っている状態だった。その数え切れないほどたくさんあった藩を廃止して中央集権化し、最終的に現在の47都道府県へと落ち着いた今、都道府県間の通行は自由で、各都道府県が独自に軍を持つことなど無く、隣の県と仲が悪いからと言って軍事衝突が起こる心配は皆無だ。歴史の流れは群雄割拠の時代を経て統一され、その中で平和を築き、その規模を徐々に拡大していく流れが自然な流れと言えるだろう。偏りは均されていくのだ。かつて世界史に現れた超大国は漏れなくその巨大な規模を維持できずに崩壊するが、情報通信技術をはじめとしてあらゆるテクノロジーが進化した今、崩壊しない平和な超大国を平和裏に建設すると言う試みはなされてしかるべきであり、今回イギリスの離脱によって、他のEU所属の国がドミノ倒しのように離脱する流れができてEUが崩壊したとしても、今回の失敗を教訓にしてまた新たな統合の枠組みが立ち上がっていくことだろう。今回の件がきっかけでEUの統合が失敗に終わっても、それは統合が先延ばしになったと言うだけで歴史の流れに大した影響はないのではないだろうか。生きているうちに欧州の統合が見られる可能性が潰えるのは、いささかの寂しさを感じるが、日本から眺めている分にはどこか他人事であるし、まだ今後EUが崩壊するのか、踏みとどまるのか、事態がどういう推移をたどるのかは未知数だ。世界はどこまでも複雑性を増していく。

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