実質的に現実であると言えるデジタル空間
今をさかのぼる事数年、クラウドファンディングにOculusがでてVR元年が本格的に始まった。あの頃がVR元年だとすると、今はVR4年か5年くらいになるだろうか。コンピューターの情報処理能力を使って視覚のほとんどと聴覚の一部をヘッドセットで置き換え、実質的な現実を体験させることができるVRは、我々ガジェット好きには待ちに待った技術である。創作やSFの中でよく見た技術が手に届くところに来た。そして、着実に普及しつつあるVRの世界へ、2020年末に満を持して発売されたのがHP Reverb G2 Headsetだ。Covid-19のあおりを受けて発売スケジュールが伸びに伸びていたのが、ヒューレットパッカードのHPから情報の取得を申し込んでいた人に電話で注文を受けるというお知らせが届き、その時に電話で申し込んだ組は、2020年11月末あたりにHP Reverb G2 Headsetを入手することができた。その後、すぐに電話での購入申し込みも締め切られてしまい、次の一般発売は2020年1月末であるとアナウンスされている。
そんな中、幸運にも2020年11月末の入手組に運よく滑り込むことができた幸運な人は誰でしょう。わたしです💗
そう、何を隠そうわたくし、HP Reverb G2 Headsetを所持している。実はしっかりとHPのHPから最新情報の取得を申し込んで、電話をかけて注文していたのだ。HP Reverb G2 Headsetはすごい。VRゴーグルには、Oculus Quest2のようにゴーグルだけでVR環境を提供するものと、VRゴーグルをPCにつないでPCの周辺機器としてVR環境を提供するものの二種類に大別される。HP Reverb G2 Headsetは単体では機能せず、Windows PCに接続し、Windows Mixed Realityの一部として機能する種類のVRゴーグルである。PCのグラフィック性能を利用できるのでスタンドアロン型のVRよりパワーの面で有利なのだ。HP Reverb G2の体感の解像度はその中でもものすごいと評判である。VRゴーグルでは近距離でレンズを通して液晶ディスプレイを見るので、液晶ディスプレイのドットが見えてしまうスクリーンドア効果というものがあるらしいが、HP Reverb G2 HeadsetがVR初体験である私は、スクリーンドア効果を知らない。Reverb G2ではドットが見えて縞々になるという体験が無いのである。Valve indexを販売しているValve社とHP社の共同開発ということで、HP Reverb G2 Headsetよりだいぶ高価なValve indexの技術がふんだんに投入されている為、価格の割に映像の綺麗さや音質の高さが段違いであると海外のレビューでも大絶賛されている。Valve Indexより視野角が若干狭いのと、内臓マイクが廉価なものになっている以外の部分においてはValve Indexと同等、もしくはそれ以上であるとのもっぱらの評判だ。私自身はHP Reverb G2 Headsetが最初のVR体験なので他との比較はできないが、画質や音質に不満を感じたことはない。これが最初のVR体験というのは幸運な事なのかもしれない。
開封の儀
文字ばっかりの前置きが長くなったのでここでさらっと開封の様子をどうぞ。
外箱の横に、保証書がついている。希望すれば領収書は別で送付してもらえるそうだ。
外箱を開けると、いきなり接続の仕方を説明した紙が現れる。
紙をどけると、箱 in the 箱!こういうぴったりしたサイズの箱を設計し、発注し、ちゃんと大量生産してちゃんとぴったり入っているという事に、なんだかすごく感心してしまった。ぴったり。
いよいよだ。この箱の中に、あいつがいる。
いきなり袋に入れられた本体が現れた。
袋から出したら黒光りした本体が現れた!かっこいい!
本体の内側。スピーカーは90度跳ね上げてしまわれた形になっている。レンズには青い保護フィルムが張られていた。
黒い封筒と、袋に入った2つのモーションコントローラーが下の段に格納されていた。
封筒の中には各言語で書かれた説明書が入っている。
ケーブルは電源ケーブルと、本体に刺すケーブル、Display Portからmini端子への変換ケーブルがついている。電源ケーブルは、本体ではなく、本体に刺すケーブルの途中にある四角いユニットに接続する。
これが新しい世代となったWindows Mixed Realityのモーションコントローラー。握りスイッチとトリガースイッチがあるのは従来通りだ。
タッチパッドが廃止されてスティックのみになっている。ゲームによってはキーバインドを工夫しないと操作できない。
本体の左上、ガスケットとの間にある挿し口にケーブルを指し、PCのusb-c端子とDisplay Portに接続してコンセントにつなぐと、VRのはじまりはじまり。
Windows Mixed Realityの世界
HP Reverb G2 HeadsetはPCにつなぐタイプのVRヘッドセットだが、具体的にはWindows Mixed Reality用のヘッドセットである。Windows PCにつないで電源コンセントをつなぎ、Windows10のスタートメニューからMixed Realityポータルをクリックすると、Mixed Realityのセットアップが始まる。
まず、PCのスペックの確認が始まる。
上の画像ではBluetoothが無いので一部の機能をサポートしていると言われている。BluetoothはPCとコントローラーとの接続に利用されるだけなので、ヘッドセットが直接コントローラーと接続するHP Reverb G2 Headsetでは必要ない。別のMixed Reality用のコントローラーを流用する場合はbluetoothでPCと接続すれば使用できる。
グラフィックカードのQuadro RTX4000はHPサーバーからの引っこ抜き品をebayで700ドルで購入した。今年こそはCADのお勉強頑張るぞという決意のもとGeforceではなくQuadroを購入しているが、VRするには普通にGeforce買ったほうが幸せになれるはずだ。CPUは第四世代のcore-i7でよわよわだが、この構成で問題なく使用できた。USB3.0+はQuadro RTX4000についているので直接そこにつないだ。
次へボタンを押すと、ヘッドセットを接続するように促されるのでここでヘッドセットを接続する。
しばらく待つ。
中央と認識してほしい方角にヘッドセットを向けて、下の”中央”ボタンを押す。
歩き回って使用するか、椅子に座ったまま使用するかを選ぶ。歩き回る方を選ぶと部屋の限界を登録してそこからはみ出そうになったら警告を上げるようにできる。座って使用する方を選ぶと部屋の範囲の指定をせずにセットアップが次に進む。この場合、歩き回って部屋の限界を超えても警告が上がらないので注意が必要だ。
確認画面で念を押される。
情報を受け取るメールアドレスを入力。
ヘッドセットにはマイクが内蔵されていて、音声コマンドで入力ができる。
必要事項の指定が終わると、ダウンロードが始まる。これでダウンロードが終わればセットアップ終了だ。
先ほどのダウンロードでHP Reverb G2 VR Headset Setup がインストールされるので、Windows10のメニューからクリックして起動する。
購入の礼を言われるので、どういたしましてと小意気に返して次へを押す。
ヘアスタイルを気にしつつ、マジックテープで頭の形にジャストフィットするように調整して次へを押す。
コントローラーのWindowsボタンを長押しして、コントローラーのペアリングを行う。コントローラーが点滅したら完了だ。
コントローラーの説明をフムフムと読んでなるほどわからん、とおもったら終了をクリックする。
これでWindows Mixed Realityポータルに入ることができる。デスクトップのウィンドウでもヘッドセットで何が見えているか表示されるウィンドウがあるのだが、これをスクリーンショットで取ろうとしたら下の画像のようになる。
VRの世界のスクリーンショットはVRの世界で取らなければならないらしい。
跡スクリーンショット取り忘れたが、Steamをインストールして、Steam VRをインストールすると、SteamにあるVR対応ソフトウェアをHP Reverb G2 Headsetで使えるようになる。コントローラーはHP Reverb G2 Headsetに付属しているモーションコントローラーのほかに、Xboxコントローラーも使用することができる。Xboxコントローラーを使用する場合は、視線の先に点が出るのがポインタとなり、Xboxコントローラーの入力と合わせて使用することになる。Xboxコントローラー以外のゲームパッドは今のところVR世界で使用することはできないみたいだった。キーボードやコントローラーの入力はVR世界に対して行っているのか、デスクトップに対して行っているのかを意識して行う必要がある。
VRゴーグルと視力矯正
VRゴーグルは目の前に液晶パネルを置いてそれをレンズで覗いて視界を覆う。左右の目の幅に合わせてレンズを水平方向に動かす調整機構は付いているが、前後に動かす機構はない。つまり、近眼でよく見えないからと言って目をレンズに近づけて解決するという方法は実装されていないのだ。なので、視力が悪い人がVRゴーグルをかぶる場合、メガネの上からヘッドセットを付ける必要がある。
だが、目とレンズの間は狭く、メガネを付けたままHP Reverb G2 Headsetを付けるとメガネとレンズがガチャガチャ当たる。これはレンズに傷がつくのは時間の問題だ。加えて、メガネとVRヘッドセットのレンズそれぞれの位置を合わせて綺麗に見えるスウィートスポットが出現するように調節するのは手間なのだ。そしてメガネはすぐズレる。ちょっとでもズレると綺麗に見える範囲があっという間に消滅してしまう。VRのスウィートスポットはとても狭いのだ。これはすごいストレスになった。そこで、amazonで水中眼鏡用の視力矯正レンズを買って、ガスケットに突っ張らせてみた。以下のような感じである。
しかしこれもまた、良くずれるのでクリアな視界を求めて別のソリューションを考える必要があるなあと思ってWeb検索していたら、ドイツの業者が各種VRヘッドセット用の視力矯正レンズを売っているラインナップの中にHP Reverb G2 Headset用がすでに用意されているのを見つけた。
これはすごい。近視遠視だけでなく、乱視の矯正も指定できる。SPHをマイナス値で指定すると近視矯正、プラス値で指定すると遠視強制になる。CYLが乱視の強さ、AXSが乱視矯正の傾きである。この辺りは眼科で数値を測ってもらって入力すると間違いがない。Carl Zeissレンズでクリアな視界が期待できる。度がきつかったり、ブルーライトカットなどのオプションを付けると高くなってしまうが、標準構成なら送料込みで1万円前後になると思われる。2~3週間で日本に届く。そうして注文したのがこれだ!
パカット開けるとなかに左右のレンズが!
ドイツ製レンズの輝き。
取り付けるとかなり飛び出す。目のギリギリにレンズがある。
ガスケットを外した状態で見ると飛び出しているのがよくわかる。
ガスケットを付けたらこんな感じ。これでクリアな視界を手に入れた。
視野角を広げるMODガスケット
Makerbot社が運営する3Dプリント用データ共有サイトであるThingiversでReverb G2のガスケットを改造し、15mm顔面をレンズに近づけることで視野角を広げるMODガスケットを作っている人がいた。
早速、プリントしてみた。
これに、valve index用のガスケットカバーをつけてみる。
このガスケットを使用すると、前述のVRゴーグル用視力矯正レンズは使えなかった。顔面がレンズに近づきすぎて目にめり込むのだ。痛い。水中ゴーグル用のレンズは薄いので辛うじて使用できた。その状態で視野を比較すると、確かにMODガスケットの方が視野角がかなり広がった。だがそれは、やはりVR Opticianのレンズの固定されたレンズの快適さを捨ててまで欲しいものではなかった。ちょっとくらい視野角が広がったからって体験が劇的に向上するという事はない。誤差の範囲に収まる程度だと感じた。本当に劇的な体験の向上には、視野全部を覆うディスプレイが必要だと感じた。視野が制限されている限り、その中で少し広い狭いは大した違いをもたらさない。個人的にはそう感じた。
VRを体験してみて
1か月ほどVRのある生活を送ってみた感想としては、VRはいいぞ!という事に尽きる。HP Reverb G2 Headsetの画面の綺麗さは数多くの恩恵を私にもたらした。Mixed RealityのシアタールームでNetflixを使って映画を見たら、現実世界では用意できないほどのデカいスクリーンで映画鑑賞ができた。動画コンテンツの視聴環境は劇的に改善した。これだけでもこのヘッドセットを買ったかいはある。
だが不満が無いわけではない。まず、VRはスイートスポットが狭い。焦点が合って綺麗に見える範囲が狭いのだ。視界の中の真ん中らへんしか使えない。そしてヘッドセットがズレるとスイートスポットはいとも簡単に消え去る。綺麗に見えるようにヘッドセットを頭に固定していくには激しい動きは避けたいという欲求を常に持ってヘッドセットをかぶっている。
そしてヘッドセットが常に顔を押し付けている状態はなかなかしんどい。綺麗に見える状態に固定しているとした瞼の下の方を下に引っ張られるような力がずっとかかった状態になる。顔のしわが美容的に気になる女子は使いにくいんじゃないかと思った。顔の肉が垂れ下がってしまう。化粧も崩れるだろう。ヘアースタイルはあきらめるほかない。
更にコントローラーは、VRのモーションコントローラーじゃないゲームパッドの方が操作性が上だ。せっかくモーションコントローラーにジョイスティックがついているのに、ジョイスティックによる移動や視点の回転ができないゲームが多い。VRだからプレーヤー自身が移動や回転すれば視点は動かせるというコンセプトなのだろう。だが目隠しをしたまま部屋を動き回るのは危険だ。ケーブルにもつながれている。自由に動ける範囲は限られている。であるがゆえにジョイスティックで移動回転したい。だがさせてもらえない。このどうしようもないフラストレーションはどこにぶつければいいのか。目の前にVR世界が広がっているのに、自由な移動ができない。カスタムオーダーメイド3D2での前にメイドがいるにもかかわらず、移動も回転も出来たりできなかったりする。デスクトップモードだとマウス一つでいとも簡単にできることが、VRになると何もできない。ものすごい抑圧された不自由を感じる。
また、コントローラーを両手に常に持っているのはしんどい。キーボードでの文字入力ができないのが不便だ。このブログもVR環境からではなくデスクトップ環境で書いている。また、現実世界とVR世界が完全に切り離されてしまっているため、飲み物を飲みながらVRを楽しむという事ができない。Mixed Reality空間に浮かべて置けるソフトウェアに制限があるのがめんどくさい。デスクトップのWindowをそのままVR環境に浮かべたいのに、デスクトップを大きなウィンドウとして浮かべることしかできない。VR環境とデスクトップ環境との入力の行き来がめんどくさい。
VRの世界では現実ではできない動きが自由にできるものと思っていた。でも、実際にVRでできる体験はVRゴーグルをかぶっているがために自由の多くを奪われた状態であるという感覚が強い。
やはり、VRよりARやMRと言った技術の方が普及しやすいのだと思う。VRゴーグルも今のヘッドセットという形は大きすぎる。せめてキングゲイナーでゲイナーがやっていたようなメガネ型のVRグラスにならないと一般的な普及は難しいのだと思う。VRゴーグルをかぶるとVR以外何もできなくなる。なのでVRゴーグルをかぶる時間は買った直後を最大として日に日に短くなっていく。せめてジョイスティックで移動と回転をさせてほしい。
2021年中には、HP Reverb G2の一つ上のグレードであるreverb g2 omnicept editionの発売が予定されている。reverb g2 omnicept editionは脈拍や視線、表情トラッキングが可能で、コンシューマ向けではなく業務用として販売される。VRChatでトラックパッドが無いためにReverb G2で表情の入力ができない問題を抱えている人や、Vtuberの中の人などは、これを使うと表情の演技で表情の入力が可能となり幸せになれるかもしれない。だが、ヒューレットパッカードはreverb g2 omnicept editionは日本での展開はしない方針であるようだ。ヒューレットパッカードのショップの法人窓口に電話すると注文自体は可能だが、日本ヒューレットパッカードからではなく米国の本体からサービスが提供されるため、購入後のサポートは英語で米国と行うことになるとXR Kaigiの質疑応答で語られていた。日本の産業界はもはや魅力的な市場であるとみなされてはいないようだ。
初めてVR環境を手に入れてそんなことを感じた。皆さまはどのようにVRライフを送っておられるのだろうか。