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映画評
2015-05-06 1:19 by 仁伯爵

パトレイバーのリアリティー

 先日、とても気持ちよく晴れていたのでお散歩ついでにTHE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦を見てきた。パトレイバーと言えばロボットものの近未来SFなのに、警察組織内のゴタゴタや武力としてのレイバーの不安定さなどを妙にリアルに描き、オタクの間では知らない人はいほどの人気を誇るが、一般人の認知度は低いと言った微妙なラインの作品である。一部のマニアの間で大人気、という表現はまさにこの作品にふさわしい。OVA、漫画、アニメ、小説とメディアミックスの走りともいうべき展開でこの作品が1988年に発表されて16年後の昨年から、押井守監督による実写作品として短編7章が劇場公開されてきた。今作その締めくくりとしての実写長編劇場版である。

 フィクション作品を語るとき、実際に二足歩行ロボットなんかあっても使い物にならないよ、などと言う言い回しは誰しもが一度は口にし、耳にしたことがあるだろう。そんな手あかのついた言い回しをあざ笑うかのように、押井守監督は、ではなぜ使い物にならないのか、運用するにあたってどのような問題が生じるのか、というのを事細かに描写して見せる。巻き起こる状況や舞台装置に、さも当たり前かのようにいちいち理由づけがなされており、押井監督は架空の存在であるレイバーの運用経験があるんじゃないかと思わせるほどの情報量を背景に物語が淡々と進んでいく。

次世代という名を借りた繰り返し

 初期OVA(アーリーデイズ)→ 劇場版第一作TVシリーズ新OVA(TVシリーズのはみ出し分)劇場版第二作劇場版第三作と続く一連のアニメ版パトレイバー作品の中でも物語の設定は微妙にそれぞれで違っており必ずしも整合性が撮れているわけではない。今回の実写版”THE NEXT GENERATION”は、その中の押井守氏が監督を務めた部分、初期OVA(アーリーデイズ)劇場版第一作TVシリーズ(ワニの回など)、劇場版第二作をつなぎ合わせた時間軸上の話であるようだ。TNG(THE NEXT GENERATION)の登場人物は特車二課の三代目として登場する。物語の中では個性の一代目、凡庸な二代目、無能の三代目と繰り返されるが、その実、登場人物たちは一代目の登場人物の名前を買えただけのそのままである。

  • 泉 野明 → 泉野 明
  • 篠原 遊馬 → 塩原 佑馬
  • 後藤 喜一 → 後藤田 継次
  • 香貫花・クランシー → エカテリーナ・クラチェヴナ・カヌカエヴァ(カーシャ)
  • 太田 功 → 太田原 勇
  • 進士 幹泰 → 御酒屋 慎司
  • 山崎 ひろみ → 山崎 弘道
  • シバシゲオ → シバシゲオ

 舞台設定も、三代目となって規模は縮小されているが、もともと一代目の頃からレイバーの運用ノウハウ蓄積のための実用性のないお荷物部隊という設定だったし、アニメ版と実写版で大した違いは無い。第一小隊解散もレイバーが廃れたという設定も、リアリティーを追求した思考実験の結果という意味に加えて、実写で複数機種のレイバーを多数登場させるには予算が足りなかったという理由もあったのだろう。そういった意味で、このTNGは過去のパトレイバーの単純な繰り返しと言える。
 TNGが作られる前に、「番狂わせ」という押井守監督による小説が出版されている。これはアニメ版パトレイバーのその後の特車二課を描いた物語で、TNGと同じく特車二課の三代目が描かれており、後藤田隊長や、太田原、御酒屋などTNGと共通するキャラクターが登場している。泉野明の性別が男だったり、カーシャのポジションに香貫子というキャラクターが居たりとTNGとは違った設定になっているが、冒頭でパトレイバーを見上げてシバシゲオ と泉野明が交わす会話などはTNGにそのまま採用されている。

 過去に、押井監督は攻殻機動隊の押井守による続編を待っているファンがいるのではないかという話題をふられて、「攻殻機動隊は人間と魂の所在について、人間と人形は本質的に同じものだと言う事をやってきたが、やりたいことはやりつくしたのでもう興味が無い」という旨の発言をしていたように記憶している。ではなぜ押井守監督はこの物語を繰り返し創ったのだろうか。それは押井守監督は実写映画指向の人であり、この企画が実写だったからだろう。圧倒的なクオリティーのアニメを作ることのできる稀有な才能があることから、ファンは押井監督にアニメ作品を求めるが、本人は実写がやりたいという希望があるという相反する状況から、経済的ニーズと実写指向とで果てしなく争われたゲームの結果でてきたナッシュ均衡のようなものがこの実写版パトレイバーだったのではなかろうか。

3度目の東京を舞台にしたテロ戦争

 アニメ版パトレイバーの内、押井監督が作った部分のリフレインである今回の実写版パトレイバーTNGの中で、”首都決戦”は劇場版第二作”機動警察パトレイバー2 the Movie”にあたる。ベイブリッジがミサイル攻撃されて、他者に巻き込まれる形で特車二課が事件操作に乗り出し、隊長が勤務中の無断外出をとがめられ本庁の会議室で吊し上げられて、拘束されそうになるがそこから抜け出して、イングラムを大破させつつ一か八かの作戦目的を遂げて終劇となるという物語のフレームは、この2作で共有されている。水族館での隊長と公安の会話や、首都高の下を流れる川をボートで移動しながら日本橋を見上げるシーンなど、劇場版第二作と同じモチーフのシーンもふんだんに盛り込まれている。劇場版第二作のテロ首謀者である柘植行人は獄中でいまだに自分の正義を信じているからここに居るのだと言い、今作の首謀者も柘植行人のシンパの生き残りを名のっていることから、劇場版第二作と今作の犯行動機は同一である。東京で戦争状態を作り出し、首都を戦場にすることで、先の戦争のあと倫理(モラル)を失ってしまったこの国の人々の目を覚ますことが目的で、本気で中枢を制圧しにかかっているわけではない。これは、OVAアーリーデイズの「特車二課の一番長い日」で米軍から核ミサイルを盗み出してクーデターを実行した甲斐冽輝も同様で、彼は議会の停止や厳戒令の施行を要求したが、洋上のフェリーで人質を取って東京に核ミサイルを向けたところで兵站が確保されていないので、東京で核ミサイルを炸裂させて捕まるか、炸裂させないまま捕まるか、の二択が時間の問題でやってくるしかなく、彼のクーデターも本気で新政府の樹立を目指したというよりクーデター騒ぎによって国民の目覚めを期待したにとどまる。クーデター騒ぎは3度描かれており、一度目の甲斐冽輝の乱では自衛隊と核兵器によるクーデター、二度目の柘植行人の乱では元自衛官のシンパと情報戦による幻のクーデター、三度目の柘植行人シンパ残党の乱では海外勢力のバックアップを受けた柘植派残党と最新鋭ヘリによるクーデターと、回を追うごとに戦争というよりはテロ事件のような様相になっていっている。国と国の正規軍同士が表だってぶつかり合う戦争が想定しにくく、テロ組織との戦闘の方が現実味を帯びている昨今の状況をかんがみた結果なのだろう。劇場版第二作のセリフを借りるならば「この街は戦争をするには狭すぎる」と言う事なのだろう。

5人の女の物語

 では、繰り返しではない部分はどんなところにあるのだろうか。パンフレットの押井監督インタビューの中で、この物語を「一人が遠くに去り、残った一人を残りの三人が袋叩きにする」という五人の女の物語だと脚本を仕上げる段階で確信したと語る。遠くに去った一人は、一代目の第一小隊隊長南雲しのぶ、残った一人がグレイゴーストのパイロット灰原零、残りの三人とは泉野明、カーシャ、高畑慧のことである。

 南雲しのぶは、過去に柘植行人の教えを受けた通称柘植学校の教え子の一人で、元恋人であり、劇場版第二作は追う側となった南雲忍と、追われる側分かれた柘植行人のメロドラマという側面も持っていた。南雲は一代目第二小隊隊長の後藤と共に柘植を追いつめて逮捕するが、南雲が柘植を逮捕するシーンでは南雲と柘植がまだ愛し合っている様子が演出される。後藤は後藤で柘植の行方を追う中で柘植の思考を推理し語るとき嬉しそうな顔をしていると南雲に指摘される。南雲と後藤の二人はその思想において柘植に共感しているが、クーデターと言う手段を否定するという立場で柘植を逮捕した後の日本に居場所を無くし海外へ出た。今の日本の社会を問題だと感じていながらも、それを正すことをあきらめて外へ出てしまっている人物だ。

 灰原零は柘植のシンパ残党に所属しており、柘植行人の側に立っているという意味で南雲と近い立場にある。しかし、他の柘植派メンバーとは違い、憂国の志は無いと言う描写がなされている。柘植の思想には共感するがテロという手段を否定する南雲と、柘植派のテロには加担するが思想を共有しない灰原は正反対の存在であるともいえる。灰原がバスケットボールを好み、ヘリコプターの操縦に天才的な才能を発揮し単にヘリコプターの操縦がを好む姿は、バスケットボールを好み、レイバーの操縦に天才的な才能を発揮し、レイバーの操縦士になる事を志して警察官になった泉野明と重なる。

 カーシャは見敵必戦が信条で、向かってくるグレイゴーストを落とすことに何の躊躇もない。作戦自体は失敗したが、グレイゴーストの補給地点への襲撃では大活躍する。高畑慧も同様に職務に忠実に事件そのものを「無かったこと」にするために動くが、「この戦争はこれだけ暴れまわったら彼らの勝ち」と負けを認めつつも、船上からグレイゴーストを狙うために機関銃で待ち受ける。

 向こう側の立場に立ってしまった灰原に向かって泉野明、カーシャ、高畑の三人が一斉に各々の弾丸を浴びせまくり撃墜するクライマックスを見るに、たしかに「一人が遠くに去り、残った一人を残りの三人が袋叩きにする」という五人の女の物語に見える。しかしそれは、「脚本を仕上げる段階で確信」したと語られていて、それを意図して物語が作られているわけではない。表向きの説明としてちょうどいい側面を切り取った説明に過ぎないと感じた。

伝統の継承と後藤田の孤独

 劇場版パンフレットの押井監督インタビューの中で「三代目が『伝統』をどう受け継ぐのかと言う事をやってきた」とも述べられている。前と同じものをそのまま繰り返しても意味が無い。前回との違いや展開が無ければ繰り返しの物語は成立しない。今回は押井監督にとってはアニメではなく実写であると言う違いのみを以て、繰り返す意味が成立してしまっている。それでもなおこの作品を見る人向けに、繰り返しを行う過程において、「5人の女の戦い」とか、「伝統の継承」などが語られるべき要素として浮かび上がっているのではないだろうか。

 後藤田は、「自分は真っ当な公務員です」と繰り返し、「超法規的」な活動を求められるたびに嫌がるそぶりを見せる。が、結局は超法規的活動によりグレイゴーストの隠れ家に攻め入って取り逃がし、そのことを咎められて御前会議で吊し上げられるが。隣に南雲がいた劇場版第二作の後藤隊長の時とは違い、後藤田は一人である。小説版ではここで高畑を想い、高畑も後藤田にほのかな大人の恋心を寄せる描写があり、二人のラブストーリーを匂わせる作りになっているが、劇場版にその描写はない。電話で南雲と高畑という二人の女性に超法規的活動を決心させられた直後、グレイゴーストが御前会議の会議室に機関砲を打ち込んでこの非常事態に及んで保身を図ってしょうもないつるし上げを行っていたお偉方を全員粉々にしてしまう。このシーンにはグレイゴースト撃墜なんかよりも比べ物にならないほどのカタルシスがある。あの醜悪なつるし上げには正すべき悪が存在するが、後藤や南雲、後藤田にはそれを正すすべがなく、テロリストたるグレイゴーストは自覚なくその悪をいとも簡単に一掃してしまう。ただ御前会議のメンバーを皆殺しにしたところで状況が変わるはずもなく、次のポジションに付けていた者たちが繰り上がってまたあの御前会議を形成するだけで何の問題解決にもなってはいない。よしんばそれで警備部の悪が正されたとしても、だからといって今回の犯人たちが目論んだような日本人の覚醒には至るはずもない。それでも、物語の中では触れられていなかったが、決定を下した警備部の上層部が全員死亡することで、決定していた二課の解隊をひっくり返す布石にはなっただろう。

繰り返される結末

 劇場版第二作の後、超法規的活動によって柘植逮捕に成功し、逸脱行為が不問に処されたにもかかわらず隊長の南雲、後藤をはじめ二課の隊員たちは全員職を辞している。「番狂わせ」でも、二課メンバーは、番狂わせ(ジャイアントキリング)を演じて名誉を回復し英雄となったにもかかわらず、その後全員職を辞している。今作の結末では、隊員たちのその後は語られていないが、同じメンバーで続編が制作可能な終わり方となっている。小説版も、最後に高畑が「幽霊が再び姿を現すとするなら、いずれまたどこかでともに”正義”を行うことがあるかもしれない。」と語り続編に含みを持たせている。

 しかし、イングラムが大破しうつむく様子が一連の物語の完結を示唆しており、後藤田も前任者の轍を踏んでしまったことを自覚していた。これまでの経緯を考えると、作家性を優先するならば物語の後、隊長は行方知れず、隊員は除隊してそれぞれの道を歩むという結末が自然だと感じる。そして今度こそ最後だとするならば、二課解隊を以て終劇とするのが本来の終わり方ではなかろうか。

 とはいえ、今回は次を匂わせる終わり方になっており、あわよくば次へ繋げようと言う商業的意図が感じられるので次回作があるのかもしれない。今回の実写版は、劇場版第二作に比べると実写と言う制約からスケールが小さくなっている。劇場版第二作にあったような、東京都内各所に自衛隊の戦車が配置されていたり、基地前で自衛隊と警察がにらみ合うと言ったシーンや、二課のレイバーと軍用レイバーの複数対複数の格闘戦といったスケールは今回の実写版にはない。やはりどうしても物語の自由度は、小説>アニメ>実写の順にならざるを得ない。個人的には押井監督作品のクオリティーは、アニメ>小説>実写の順となると思う。アニメで作品を堪能し、さらにその作品の奥にある世界を求めて小説を読み、そのうえでアニメをまた鑑賞するととても楽しい。もはやパトレイバーを繰り返す意味は薄い。一ファンとしては、やはり押井監督には、繰り返しではない次の新しいアニメの次回作を期待したい。そんなことを再確認させられる映画であった。皆様はどうご覧になっただろうか。

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