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映画評
2012-11-04 12:38 by 仁伯爵

009 RE:CYBORG 3Dを見てきた。結論から申し上げるに、面白かったが、もう少しじっくり見せてほしかったような気がした。009 RE:CYBORGの総集編を見ているような気分になった。この内容を13回のTVシリーズで見たら、ちょうど満足できるんじゃないだろうか。そんな気がした。

3Dは文句なく今まで見た3D映画の中で一番きれいだった。攻殻機動隊SSS 3Dの時に比べるとレベルが明らかに違うと素人目にもわかった。本編が始まる前の予告でも3D映画の予告がいくつか流れたが、それらに比べても子供と大人ほどの差があるように感じられた。視線が集中する芝居をしているキャラクターの周りだけでなく、ほかの画面の隅々に至るまで焦点を合わせることができた。焦点が合わない絵で3Dが邪魔だと感じるようなシーンは無かったと言っていい。画面から飛び出すだけでなく、画面の中に入っていく奥行によってキャラクターたちのいる世界がとても広く感じられ、どれだけ大画面にしても得られなかった臨場感を体験することができた。今までは3D特有の見づらさが邪魔していたが、この作品でようやくそのもやもやが払拭されて3Dでもここまで気持ちよく見れるんだという爽快さがあった。

しかしちょっと気になるシーンがなかったわけではない。3Dにするにあたり、右目用と左目用に少しづつずらした画像を作りそのどちらかに足りない線があると目に相当な負担がかかるそうで、それを相当入念にチェックしたそうだ。ただ、初めてギルモア博士の研究所に到着し、立ち話をしていたシーンでフランソワーズのアップの時の鼻の線がちらついていたのが気になった。もう一つ、ジェットがサムエル・キャピタルの会議室で経営陣に問い詰めるシーンの、左右に並んだ人物たちが2重にぼやけて見えた。

また、グレートとジェットがバーで会話をしているシーンのジェットが吸っていたタバコの煙がなんだかのっぺりとしていた。3Dで奥行きを出しているため遠近法で絵を小さくしたり大きくしたりしても、配置されたレイヤーの上で拡大縮小してるように見えてしまい、大きさによる遠近感の演出はできないんだなぁと感じた。

気になったのはそれくらいで、そのほかのシーンはことごとく素晴らしかった。ジェットがドバイへ向かった爆撃機を追ううために戦闘機でドッグファイトを演じるシーンでは、積乱雲の合間を戦闘機がものすごいスピードで飛んでいく様が、紅の豚やスカイ・クロラなどとは全く別種の臨場感が楽しめた。

009は天使や神々との戦いといったファンタジーのテーマとともにベトナム戦争など政治的なテーマを扱う作品である。もともと00ナンバーズは冷戦下の軍産複合体によって作られており、本作では冷戦の終結で一部のメンバーが自国に戻りそれぞれの生活を行っている。テロとの戦争とそれを利用しようとして持て余すアメリカという政治的背景と、天使の化石をきっかけとして神によっておこされる人類のやりなおしと次元上昇というキリスト教的ファンタジーという要素の配分が未完の009という作品をよくバランスよく受け継いでいる。

キリスト教的価値観を内包して世界展開を狙いつつも、作中で語られる通り「彼の声」を聞いたとされる人々が語る一節は、聖書のような言い回しだが聖書の引用ではないなど、キリスト教からスライドさせて、さらに「彼の声」にあらがって見せることが進むべき道として物語の中で提示されているあたり、キリスト教的価値観にとどまらない日本人監督らしさがあるように感じた。

脳こそが神で、その声を個別に聞いた人々が起こすそれぞれの行動がテロに収束することによって世界が塗り替えられていくという図式は、攻殻機動隊SAC 2ndGIG個別の11人を彷彿とさせる。個別の11人には合田一人という明確な犯人がいたわけだが、合田すらCIAの意思に沿って利用されていたし、そのCIAのエージェントすらアメリカの一部でしかない。009 RE:CYBORGでは、CIAですらなくNSAが陰謀を主導している。組織の頭がそのその組織の意思をつかさどっているわけではないという現状で、高度な政治的意図で動いていく世界情勢とその中で起こる個々の事件には、もはや首謀者と言える者など無く、誰と戦って良いのかすらわからない。その答えが、首謀者は神であるという009 RE:CYBORGの落ちであり、さらにその彼の声に逆らって見せたものだけがあのラストシーンの世界へたどり着くことができるという結末へとつながっていったのは十分に納得のできる爽快なラストであったと個人的には思ったが、賛否両論巻き起こるだろうと感じた。

神や天使といったファンタジー要素も含みながら、細部の描写に至るまで実にリアルだ。ドバイのビルに核ミサイルが撃ち込まれて爆発するシーンも、まず眩しい光、次に熱が伝わり人々が燃えて、その後に爆風ですべてが飛ばされていく。球体に見える爆心地の上に二重のわっかの雲が発生してその上にポッコリときのこ雲が形成されるという非常に細かい描写を行っている。その前に六本木のビルにアメリカの超音速ミサイルが撃ち込まれるシーンがあるが、核ミサイルとの威力の差がありありと伝わる。これまで、アニメに登場する核兵器は、未来少年来コナンでは”超磁力兵器”、エヴァンゲリオンや日本沈没では”N2爆雷”、宇宙戦艦ヤマトでは”ハイパー放射ミサイル”、マクロスやテッカマンブレードでは”反応弾”と色々呼び換えられてそれぞれ物語の中での最終兵器として描かれるものの、言及が避けられてきた。この作品では逃げずに核ミサイルであると明言して爆発の様子も資料に基づいて実に写実的だ。

ラストシーンで大きく変わってしまった世界において、やはりそこからまた新しく世界が形成されていく過程における00ナンバーズの戦場はまだまだ想定できそうであり、この続編ももしかしたら期待できるんじゃないだろうか。今回はグレート・ブリテンは冒頭の世界中で起きている事件の説明シーンが終わった後にすぐ消えてしまうし、ピュンマに至ってはイスタンブールのバザールとラストシーンしか出番がなく、潜水能力を使うシーンがない。潜水艦から核ミサイルが発射される場面でピュンマが止めに入るのかと思いきや、あの時点ではすでにラストシーンの世界にいたんだろう。

ぜひ続編はTVシリーズか、2本か3本のシリーズもの劇場版として一つの事件をじっくり描いてほしい。ピュンマやグレート・ブリテンに見せ場を与えてもらえるとうれしいと思った。フランソワーズはエロ可愛くて申し分なかったということを付け加えておく。

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