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映画評
2012-12-27 12:43 by 仁伯爵

先日、クリスマスイブの深夜に「映画 けいおん」がTBSで放送されていたので観た。TV版は一期も二期も見ていたが、映画は見なくてもいいかと侮って劇場に足を運んでいなかった。クリスマスイブの夜にTVで見たのも、明石家サンタまでのつなぎのつもりで途中まで視聴したのちチャンネルを切り替えるつもりでなんとなく見ていたに過ぎない。

しかし私の認識は間違っていた。結果的に私は明石家サンタを捨てて、けいおんを最後まで視聴したのだ。本編が終わってCMにいってもこの後エンドロールがあるはずだとチャンネルを変えずCMを耐え抜き、みごとエンドロールの最後まで見逃さず最後まで見届けた。

京都アニメーションのアニメは、絵がとてもきれいである。作画も安定している。けいおんは、いわゆる萌えアニメと言われるジャンルのアニメで、ただただ登場人物の女の子を愛でる目的で視聴される作品だ。萌えアニメといわれるジャンルでは、キャラクターに萌えることが目的で視聴されるが、キャラに愛情を注ぐ目的のジャンルであるにも関わらず作画が乱れることが珍しくない。動きが不自然であることはもちろん、メインキャラがカットごとに別人に見えるなんて事すらも許容されてしまう。それは萌えアニメを好む視聴者の目的はキャラに魅了されることであり、視聴者はその作品における品質の乱れが嫌悪感を覚えないレベルに収まっている限りにおいては積極的に登場人物を愛そうとするからだ。絵がめちゃくちゃでも、ストーリーが破綻していても、登場するキャラクターが萌え属性を正しく記号化して備えることができていれば、魅力的な萌えアニメ作品として成立してしまうのだ。キャラクターの人格がどれだけ不自然でも、愛でる対象として合格点であれば良い。合格点であるかどうかは、お約束を守っているかどうかで決まる。記号化された萌え属性をお約束として理解していることが、萌えアニメ視聴者の前提条件となる。お約束が共通の文脈として共有できない人間が視聴しても理解できない。それ故に萌えアニメは一般に広くは理解され得ず、誤解されやすい。逆を返せば、萌えアニメとして成立させてしまえば、ストーリーや作画は二の次にできてしまう。それを好む顧客がいる限り、それでも最低限の商業的ハードルをクリアしてしまうのだ。

そんな中で、京都アニメーションのつくる萌えアニメは、作画のレベルが飛びぬけて素晴らしい。けいおんTVシリーズでは、登場人物に男が居ない、主人の親が登場しないなど、徹底的に世界を萌え専用に歪めて構築しているため、萌えアニメでありながらストーリーや登場人物の人格破綻を最小限に抑えることに成功している。しかし、そんなクオリティーの高いTVシリーズのけいおんも、その世界のゆがみがどうも鼻につき、やはり萌えとは萌えアニメではないアニメのキャラクターに見出すのが正しいアニメファンのあり方だろうと諦めていた。それが萌えアニメの限界であると感じていたのだ。

その認識を映画けいおんは打破した。卒業旅行で初めての海外旅行のわくわく感、卒業前の寂しさ、そしてそれらを経た後に、TVでも登場した一人残る後輩へ送る歌へと物語が収束していくに従い、さわやかな感動を覚えてしまった。TVシリーズではやらなかったラインを所々であえて踏み越えて世界が広がっている。主人公の両親が登場したり、男性教師がラストで活躍したりするのもその一環だろう。エンドロールの後に切ない感情を余韻に残す作品は、別の意味で衝撃を受けたヱヴァンゲリヲン新劇場版:Qを除けば、細田守監督の「時をかける少女」以来だと思う。

このように多弁を弄してみたが、実のところなぜ自分が映画けいおんで感動したのかはよくわからない。しかしこれは良いものだとそう感じた。女の子4人によるきゃっきゃウフフの世界が成立しているにもかかわらず、わざとらしさや不自然さが最小限に抑えられているのは見事だとしか言いようがない。大人になってから久しく遠ざかっている優しい空間が、もしかしたら現実にも成立し得るのではないかという淡い夢に浸る甘い時間を過ごすことができた。思いがけず良いものに出会った。TV版けいおんはさておき、映画けいおんは一見の価値がある。

ただ、私は紬ファンであるが映画けいおんにおいては彼女の活躍シーンが少なかったのがいささか残念であった。

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