2015-11-15 10:03 by 仁伯爵

TVとインターネット

今日の映像コンテンツは、TVのみならずパソコン、スマートフォンやタブレットと表示される端末が多様化している。これからはこれにヘッドマウントディスプレイやVRメガネなんかも追加されていく事だろう。ホームシアターを構築するならばプロジェクターも選択肢に入る。しかしながら、その普及率で言えば衰えたとはいえTVの存在感が圧倒的であると言う事実はいまだゆるぎない。そこで、TVの凋落により視聴率が下がり、電源が入れられる時間が減ってもなおお茶の間に鎮座し続けるディスプレイ装置の空いた時間を狙う者たちが出てきた。それが、GoogleのChromecastであり、AppleのAppleTVであり、そして今回の主役であるAmazonのFire TVである。

ディスプレイ装置としてのTV

かつて映像再生の王であったTVは、ディスプレイとチューナーが一体型となった装置である。垂れ流される電波をうけて逐次映像が流れていくので、見逃すことができない。見たい番組の放送時間にTVの前に拘束されてしまうのを防ぐために外付けのレコーダー機器を用意する必要があり、レコーダーから出力される映像を表示するための各種入力端子を備えている。TV局の放送に愛想が尽きても、ディスプレイとしての機能に利用価値が残る。そこにHDMIから忍び込んでユーザーがTVを見る時間をネットストリーミングでコンテンツを見る時間に変換してしまおうと言うのが、GoogleのChromecastAppleのAppleTVAmazonのFire TVのたくらみである。

電波による放送と、ネットによるストリーミング

前に述べた通り、電波による放送を視聴するためには放送時間にTVの前にいる必要があり、それを避けるためにはあらかじめ予約してレコーダーに録画しておく必要がある。一昔前ならVHSやベータマックス等のテープ媒体に録画していたので、友人が録画したのを借りると言う事が可能であったが、最近はHDD(ハードディスクドライブ)にデジタルデータとして保存し、それに著作権保護のためのプロテクトが色々と仕掛けられているので、何も考えずに貸し借りできるという手軽さは失われてしまっている。録画予約を忘れてしまえばそのコンテンツを視聴することはできなくなってしまう可能性が高い。ニコニコ生放送のタイムシフト予約などはこのあたりの録画予約の不便さを意図的にネット放送にも残すことにより課金動機の一つとして利用している。

一方でAmazonのFire TVなどが提供する動画コンテンツはオンデマンドである。コンテンツ提供者が公開を開始してから公開を停止するまでの間であれば、いつでも好きな時に見ることができるため時間により拘束される事が無い。また、聞き逃したセリフや早すぎて読めなかった字幕、宅配便などの来客による中断など、ちょっとした視聴ちゅうの出来事に対応するのに、巻き戻しや一時停止、早送りなども自由自在である。深く考察が必要な作品などを見るのにももってこいだ。地デジ化されたときにTVにサヨナラしちゃった人にも、PCのディスプレイに繋いで使えば気になるコンテンツだけを視聴することができるようになる。

Amazon Fire TV Sticの入手

そこで、今回はAmazon FireTV Sticが予約キャンペーンで安くなってたので入手してみた。今はもう発売後なのでキャンペーンは終了してしまっているが、30日間返品可能という別のキャンペーンが張られているようだ。Amazonプライム会員ならプライムビデオが無料で見放題であると言うのも購入の決め手となった。プライムビデオは別にPCのブラウザ上からでも見れるのだが、PCに繋いでいない余ったディスプレイを動画再生用にしてしまえば、PCの画面を圧迫せずに動画を視聴しながらPC上で作業ができる。出張にもっていってもホテルのTVに繋げば課金せずにFire TV Stickから映画を見ることができたりするかもしれない。Fire TV Stickはポケットに入れても気にならないほどに小さいのである。

開封の儀

では、実際に届いたFire TV Stickをご覧いただこう。
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パッケージに書かれている通り、Amazonビデオだけでなく、GyaoやRedBullTV等の動画も見れる。後述するが基本的にはAndroid端末なのでアプリを追加することにより、Youtubeやニコニコ動画なども見ることが可能なのだ。封を解いてみる。
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そしてふたを開ければいよいよご対面である。Fire TVには、Fire TVFire TV Stickがあり、さらに音声認識機能リモコン付きか、音声認識機能なしリモコン付きかを選ぶことができる。今回手に入れたのは音声認識機能なしのFire TV Stickである。音声認識機能付きリモコンは別売りでも買えるし、Androidのスマートフォンを所有していれば、別途Amazonリモコンのアプリを入れることにより、スマートフォンを音声認識リモコンにしてしまうことも可能だからだ。
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本体とリモコンを取り出すと、その下にHDMIの延長ケーブル、USBコンセントコネクター、USBケーブル、リモコン用単四充電池、説明書、が入っている。リモコン用の電池が充電できるタイプの物なのがうれしい。粋な心遣いだ。
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USBケーブルと電源アダプターは純正品をつかえと注意書きがある。現在純正品ではないケーブルとアダプターで運用しているが特に問題は発生していない。粗悪品を使わなければ問題ないと思われる。
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ちなみに、なかなかきれいに写真が撮れているのは、このまえ手作りした写真撮影ボックスを使用しているからだ。くわしくは写真撮影ボックスにささげるララバイをご参照いただきたい。

本体の設定

本体を使用するディスプレイのHDMI端子に差し込んだ状態で、コンセントに電源アダプターをさして、本体と電源をUSBケーブルで接続すると、本体に電源が供給されFireOSが起動してくる。ディスプレイの入力をHDMIに切り替えると、FireOSの画面が確認できるはずだ。
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画面の指示に従って、リモコンの再生/一時停止のボタンを押すと、言語選択の画面になるのでリモコンの方向ボタンで日本語を選択して、真ん中の決定ボタンをおす。
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続いて無線LANの接続設定を行う。WPSが使用できる環境なら、無線LANルーターのWPSボタンを押して、”WPSボタンで接続”メニューから接続できるはずだ。今回は手動でSSIDを指定して接続してみる。画面の右から2つ目に現在電波が確認できている無線LANネットワークのSSIDが表示されているので、方向ボタンで選択して真ん中ボタンで決定する。接続したいネットワークが見つからない場合、右側の”Wi-Fiネットワークを再スキャン”を選ぶともう一度改めてスキャンが実行されるのでケットワークが見つかるかもしれない。
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無線LANのパスワード入力画面になるので、パスワードを入力して、再生/一時停止ボタンを押すとネットワークに接続されるはずだ。
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その後Amazonアカウントでのログインを求められるので、AmazonのユーザーIDとパスワードでログインする。当環境ではなぜかここで英語に戻ってしまった。原因は不明であるが、なにやらレジスターには成功してるらしいので良しとした。
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このアカウントで問題ないかと聞かれたら、アカウント名に問題が無いことを確認して、YESボタンを選択して決定ボタンを押す。
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すると、唐突にチュートリアルボーイが現れて、ビデオで大雑把な使い方を色々説明してくれる。
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最後に、ペアレントコントロールを使うかどうか尋ねられる。R-15やR-18の過激な表現のある作品にフィルターをかけることができる。ここで制限を掛けると、ナインハーフやエマニエル夫人が見れなくなってしまう。一部のゾンビ映画なんかも見れなくなるだろう。今回は全部見るつもりなので”No Parenttal Controls”を選択する。この設定は後で変更できる。
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すると、ホーム画面が表示される。
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その後の細々した設定として、なぜか英語になってるので、SettingメニューからLanguageを選択して日本語に戻してみた。あと同じく日本語になった設定メニューから、”アプリケーション”を選択して、アプリの使用状況データを収集をオフにしてみた。
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Fire TVは基本Androidなので、アプリケーションの追加が可能となっている。どんなアプリをどんだけどのように使ったかの情報がビッグデータの一部として収集されてしまう。気持ち悪いのでオフにしてみた。ここをオフにしても、もっとえぐい情報は断りなく内緒で収集される事だろう。でもこうやって意思表示しておくことでユーザーはこういうの嫌いだよって言うのを伝えておくのは悪い事ではないだろう。
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Fire TV Stickのいいところ

しばらく使ってみたところの感想を述べていきたい。まず、レンタルビデオ屋に行かなくても部屋から多くのカタログを吟味して見たいコンテンツを視聴できると言うのはとても気持ちがいい。アマゾンプライム会員なら無料で見れるプライムビデオのコンテンツが、トライガンなどの懐かしのガンアクションから、ゆるゆりなどの最新萌えアニメ、バックトゥーザフューチャーシリーズから、孤高のグルメまで幅広くメージャーなタイトルが割と充実している。ヤングブラックジャックなど、今期放送のアニメも数は少ないがTV放送から一週間遅れくらいで公開されている。しかも最新話のみならず一話から見返すことが可能だ。Amazonビデオのユーザーが増えて、ここで公開すればユーザーにアクセスできるとコンテンツ提供者に認知されれば、最新クールのアニメの数も増えていくことだろう。そうなると地方在住のアニメファンにとってここが天国になる可能性がある。

さらにホーム画面からアプリを選択してアプリを入れれば、Hulu、Netflix、U-SEN、ニコニコ動画、GYAO、YoutubeなどのAmazon以外の主要なプラットフォームのコンテンツにアクセスすることができる。すでにのそのあたりのサービスに加入している人にとってもFire TV Stickは便利なツールとなり得る。

そして、この機体のOSはAndroidOSであるがゆえに、アプリ画面からはAndroid用のアプリもインストールが可能だ。VLCプレイヤーをインストールした状態でESファイルエクスプローラーを入れれば、SMBファイル共有でファイルサーバー上のエッチな動画を再生すると言う事も可能だ。ブラウザアプリをインストールすればネットサーフィンもできちゃうだろう。要するにAndroidアプリがいろいろ使えるのアイデア次第で便利に使えるかもしれないのである。リモコンからの入力がまどろっこしい場合、Fire TV StickにはBluetoothのゲームパッドの接続が可能だ。Fire TVならば加えてキーボード、マウスの接続も可能だ。

Fire TV Stickの悪いとこ

まず一番深刻な問題はこれだろう。
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お分かりいただけただろうか。”ゆるゆり“関連をお勧めされてしまっているのだ。”ゆるゆり“はとても素晴らしい作品なので、Amazonプライムビデオのラインナップの中にこの作品を見つけたときは喜んで真っ先に視聴したのだ。だからAmazonは私の視聴傾向から、萌えアニメをお勧めしており、その根拠として「お前は”ゆるゆり“を見た。」という逃げ場のない事実を突きつけてきている。そしてこれはTOP画面であり、電源が入ってすぐに表示される。つまり、もしこれが居間におかれたディスプレイに常時接続されたFire TV Stickであったなら、家族や来客の折にその画面が表示されてしまう危険性、大である。これは恥ずかしい。趣味がもろばれだ。これがエマニエル夫人であったら、失楽園であったら、ナインハーフであったら、非常にまずいことになる。

Fire TV StickはAmazonアカウントに紐づけられている。Amazonアカウントにログインしなければ使えない。お茶の間のTVの代わりとしてFire TV Stickを使おうとすると、家族や同居人など複数人で共有することになる。よって個人のアカウントとは別にお茶の間用アカウントの用意が必要になるだろう。たとえお茶の間用アカウントを使ったとしても、直前に見たコンテンツがTOPに表示されるリスクがあるので、ごくごく個人的な趣味の物は視聴できないだろう。これは前に述べた、アプリ追加で使用可能となる他のプラットフォームのサービスをFire TV Stickで使用する場合にも言える。例えばニコニコ動画のアプリを入れたら、ニコニコ動画のアカウントにログインすることが求められる。ログインしなければ視聴できる動画の上限に制限がつくのだ。パブリックな場所に置く端末に使用するアカウントは注意して運用する必要がある。

故に、お茶の間にある今は使われなくなったTVに刺して使うと言うには個人的すぎて、PCのディスプレイに刺すくらいならPCのブラウザからamazonビデオにアクセスすればいいと言う事になるわけで、いささか中途半端な存在なのではないかという印象を受けた。

また、かつてTVを見ていた時には、どの番組を見ているのかという情報は視聴率調査対象に選ばれてでもいない限り他人に知られることが無かった。何を視聴するのかは完全に自由だったのだ。しかしFire TVを経由してみたコンテンツはAmazonの知るところとなる。合わせて本の購入履歴や、その他商品の購入履歴もAmazonはデータとして保持している。その偏りから主義主張や人となりを推察することなど造作もないだろう。それが公正に扱われる限りにおいては何の問題もない。しかし、ひとたび悪意ある人の手に渡れば、それはとてつもない脅威になり得る。そんなリスクを回避できない社会に生きているという認識が我々には必要なのかもしれない。ある日突然社会的に抹殺されてしまうと言うリスクを何の犯罪も犯していない一般庶民の誰もが抱えていると言っても過言ではない。

Fire TVの可能性

以上を踏まえて考えるに、あと二つの点において発展してゆくならばFire TVは非常に多くの可能性を秘めていると言える。一つには、おすすめの根拠をぼかして、視聴傾向に沿ったものと視聴傾向から遠いものを敢えて混ぜてお勧めすると言うレコメンド機能の実装である。萌えアニメを見たからと言って萌えアニメだけをお勧めされても困る。視聴傾向から大きく外れたものの中に自分が本当に面白いと感じるものがあるかもしれず、そのような思いがけない作品との出会いこそ人々がプラットフォームに求めるものであるだろう。さらに、おすすめに萌えアニメが出たときに、「これは萌えアニメをよく見るから表示されるのではなく、Amazonに消費傾向とは違うが気に入りそうなものをお勧めする機能があるから表示されるんだ」という共通認識あがれば、ヒヤッとするようなおすすめがあってもいいわけが立ち、使用する人の精神がくじかれてしまう危険性を大きく軽減できるだろう。どんな状況にも逃げ道は必要なのだ。

もう一つは、TVでリアルタイムに放送されている作品を同時期配信の実現である。報道やニュースでも、バラエティーでもドラマでもアニメでも、TV放送とほぼ同時に配信開始することができれば、TVチューナーで電波を拾って番組を視聴するのはデジタルガジェットに届かない高齢者のみになるだろう。そんな高齢者もあと十年もすれば大半はいなくなる。人々は見逃しの恐怖や録画の手間から完全に開放される。TVよりも配信の視聴者の方が多くなれば、配信開始をTVに合わせるのではなく、TV放送の方がストリーミング配信開始に合わせることになるだろう。コンテンツを視聴者に届ける役割はTV局からプラットフォームが担う方向へと移りつつあり、そのコストは高価な放送機材をそろえなければならなかったTV局とは比べ物にならないほど低減されることになる。番組制作の自由度も幾分向上するかもしれない。VRが発達すれば自宅で情報空間で展開された大画面での視聴体験が可能となり、マナーの悪い他の客に腹を立てなければならない映画館のアドバンテージは小さくなる。そうなれば映画の配信も映画館での公開と同時にストリーミング配信開始という選択があってもいいはずだ。現に町の味のある粋なチョイスをする映画館は徐々に潰れて規模の経済性に支えられた大手のシネコンだけになっており、それですら徐々に集客が難しくなってきているという声もちらほら聴く。これは個人的な意見で必ずしも多数派の意見ではないだろうが、映画館で大画面や大迫力の音響よりも、自宅での落ち着いた環境の方が物語に没入できる。同じ値段で最新作が家で見れるなら私は迷わず映画館より自宅を選ぶ。ど迫力の映像体験ができる環境が情報空間で構築できるようになるならば、それは自宅でも展開可能となる。そしてそれはゆくゆくは映画館で提供不可能なものを提供するようにさえなるはずだ。

理想郷への遠い道のり

だが実際にFire TVがTVに置き換わるのは現時点では不可能である。ネットワークの帯域が圧倒的に足りないのだ。TVの視聴者がそのままストリーミング配信で同じ量のコンテンツを同じだけ消費すると、日本のネットワークインフラはパンクする。その詳細な根拠は、川上量生著「鈴木さんにもわかるネットの未来」をご参照いただきたい。ネットインフラの設備投資は今後どうなるかわからない。通信速度が高速化されても通信量の規制に引っかかるまでの時間が短くなるだけで何の恩恵もないと言う状況が珍しくなくなっている。今これを投稿している環境は、1Gbpsをうたい文句にしている光回線を使っているがベストエフォート式なので実際に出ている速度は昼間のすいてる時間で数十Mbps、夜の混んでいる時間帯では2Mbps程度だ。ADSL時代の方が早かったのではないかと疑いたくなる。ADSL比べて光回線の帯域はとても広い。それでもそんな状況になってしまっている現状を見ると相当混んでるのだ。もう何年も改善されていないので、インフラに期待するよりは革新的な動画圧縮フォーマットの出現に期待したほうがいいのかもしれない。そんな状況だ。電波の放送は4Kを見据えて8Kへの移行も計画に入っていると言う。そんな高解像度の動画コンテンツを今のネットに流せばあっという間にパンクだろう。VRの360度のデータコンテンツならなおさらだ。ネットインフラが大幅に増強されなければTVや映画がネットに置き換わることは無い。そこがFire TVの限界であり、ネット界隈すべての限界でもある。これ以上リッチなコンテンツを配信できるかどうか。それはFire TVの機体の性能ではなく取り巻く社会環境に依存していると言えそうだ。日本のネットインフラが増強され、キルミ―ベイベーがAmazonビデオで配信再開されることを祈るばかりである。

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