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政治経済
2012-06-15 14:21 by 仁伯爵

今日、違法ダウンロード刑罰化、リッピング違法化の法案が衆議院通過したとのニュースを読んだ。その後衆議院のWebサイトに行って衆議院文部科学委員会の様子と、その後の衆議院本会議の様子をさらっと見た。言い知れぬ不安を感じた。これに賛成している大多数の政治家は、これがどういう問題か理解していない。この法案は自公から出され、民主党が提出する消費税増税法案を通す事と引き換えに、通過させたものだ。参議院は自公が過半数を握るので通過するのは避けられないだろう。今国会で通ってしまうであろう。

まず、ダウンロード刑罰化に付いてだが、これはダウンロード違法化の時にも物議を醸した。これは、ダウンロードする側が、それが違法な物なのか、合法な物なのか区別がつかない場合があると言う問題がある。著作権が完全にクリアなコンテンツなどWebを見る側には見分けがつかない。さらに、こんにちではWebサイトを表示させただけでダウンロードされてしまう物も多くある。キャッシュフォルダにあれば合法だが、キャッシュフォルダから移動すると違法だ、などというトンデモ理論が罷り通っている。そんな議論がなされている時点で危なっかしくて立法を任せておけないと思ってしまう。  それなのになぜ、ダウンロード側を取り締まると言う無理筋を通そうとしているかと云うと、アップロードする側の人間が海外の個人や業者で、海外のサーバにアップロードしてしまうと取り締まりが出来ないからだ。だからと言って、判断不能のダウンロード側を取り締まるのは明らかに筋が悪い。後々に遺恨を残す事に成るだろう。

多くの問題を抱えたままのダウンロード違法化が強行された際の言分けとして、違法化はするが刑罰化はしないと言う話でお茶を濁していた。そもそも全部取り締まる事などできるのかと云う問いの答えが、罰則を設けないから問題ないと言う事だった。それに対して、どうせすぐ罰則化がされるんだろ、と言う声も同時に多くあった。

そして、今回の罰則化である。違法ダウンロードなんてしないからいいよ。と云う話ではない。この法を利用して悪意をもって人をはめるのは至極簡単である。法を犯さず詐欺にも利用できる。そんな悪意を向けられなくても、知らず知らずの内に利用したWebコンテンツが著作権を侵害していないとどうやって確認すれば良いのか。不可能である。しかも今回つけられた罰則がチョー重い。2年以下の懲役又は200万円以下の罰金である。明らかにやり過ぎであり、かの業界の力の強さを物語る。このような文句を言い騒いでいると、親告罪だから大丈夫だよと云う声が今回も聞こえてきた。なので、次は非親告罪化するのだろう。

さらに、今回追加されたのが、リッピング違法化だ。複製防止を目的に施された技術的保護を回避するのはすでに違法だ。そこに、技術的保護として暗号化が付け加えられた。これにより、暗号化を回避しての私的複製も禁止されたことになる。つまり、自分で購入したDVDを、リッピングしてHDに保存したり、iPhoneなどスマートフォンやシリコンプレーヤーなどにデータだけ格納して持ち歩くと言う使い方が禁止される。DVDは暗号化されて納められているからだ。音楽CDは、暗号化は施されていないのでリッピングOKだと見られているが、音楽CDのTOC(Table Of Contents)と言う領域にコピー不可のフラグが立っている。今の機器はそれを参照しないのでコピーし放題なのだが、これが技術的保護と認められれば、自分で買ってきた音楽CDをシリコンプレーヤー型のウォークマン(分かりやすいのであえて使った)に入れて持ち歩くと言う事が違法になる。しかも、麻薬をやったのと同じくらい重い刑罰付きだ。技術的保護が無いディスクならリッピングしてもいいと言う事だが、そのディスクに技術的保護が成されているかどうか、どうやって判断すると言うのか。一般の消費者にそこまでの深い知識を求めるのだろうか。保護技術の知識がある者しか怖くてCDやDVDを扱う事は出来ないと言う事に成る。CDや、DVDなどの円盤のメディアの寿命は約10年だと言われている。その位でプラスチックを引っ付けている接着剤が劣化して剥がれるので読み取れなくなる可能性があるからだ。実際にはもっと長いかもしれないが物理的寿命は付いて回る。小さいお子さんがいる家庭では、表面に傷が付くと読み込めなくなる光ディスクのデータはHDDなどのメディアに退避させておくと言う使い方も今まではOKだった。これからはできない。CDやDVDに付いた値段は、そのディスクが壊れるまでコンテンツを楽しむ権利であると言う事らしい。

ここまで書いたのは極論も含まれてはいるが、それでもこんな状態で、誰がCDやDVDを買いたくなるだろうか。此の法律が施行されれば間違いなく物理メディアに入ったコンテンツの売り上げは落ちるだろう。買う意味がないからだ。それだけではない。法的に罰せられるリスクを背負ってしまうからだ。

音楽業界も馬鹿じゃないだろう。この法案により物理メディアによるコンテンツ販売が死滅するなどと言う事は百も承知だとするとこの法案を通すためにロビー活動を行ったのは何が目的だったのだろうか。おそらく、「ダウンロード販売のみ安全で合法だからそちらに移行しろ愚民共。」と言う事だろう。

現状では、CDの売れ行きは惨憺たるものだ。それを補っていた着うた等のデジタルコンテンツのダウンロードも減少傾向だ。携帯各社に囲い込まれていたガラケー(キャリアの言い方ではフューチャーフォンか)でしか着うたは売れない。スマートフォンでは自分で簡単に着うたが作れてしまうのだ。好きなアーティストのCDをmp3に変換し、スマートフォンに送れば、それでそのまま着信音として使用できてしまうからだ。スマートフォン以外の新機種を各キャリアが発売しなくなっている現状では、もうこれからは着うたは壊滅だろう。その他のコンテンツのダウンロード販売はそう伸びてはいない。好調なのはappleのiTunes Storeくらいの物だろう。そのような状況の中で、CDやDVDなどの物理メディアを過去の物とすることで、その分の売り上げを、ダウンロード販売の売り上げに付け替えようと言う意図があるのだろう。

また、自分でリッピングしたコンテンツにはコピーコントロール技術が施されない。その人の自宅のPCとスマートフォンと、出先に持っていくモバイル機器等々にコピーし同時に存在できる。ダウンロード販売で販売したコンテンツには、コピーコントロールを付ける事が出来る。PCからスマートフォンにコピーするには、コピー完了後にコピー元を削除しなければならない、などと言ったことをするのだろう。「同時にいろんな機器に入れて置きたければ複数買え愚民共。」と言う事だ。

つまり、世の中にあるデジタルデータは全て、コピーコントロールが付いたものに置き換えたい。それが今回の法案の意図だろう。顧客が勝手にデジタル化したコピーガードなしのデジタルデータがこれ以上生産されるのをストップしたいのだと思う。

だがそれも、筋が悪い。appleのiTunes StoreもAmazonのダウンロード販売も徐々にDRM(Digital Rights Management) を解除するDRM Freeの時代へ移行している。日本だけが逆行した所で意味がない。一人負けする事が出来ると言う意味はあるか知れない。それに今までリッピングしたコンテンツは残り続ける。どんなに消そうとしても無駄だ。デジタルデータは複製しても劣化しないのが売りなのだから。

あり得ない幻を追いかけるよりも、他のビジネスモデルを考えた方が良いだろう。明らかに音楽や映画などのコンテンツ産業は斜陽産業だ。大きな組織が大規模にみんな知ってると言った知名度を作り出すのは、もう不可能なのだ。小規模にWebで自らが発信してプロモーションを行う様なビジネスモデルの方が強い。知名度が低いコンテンツを違法コピーすることにはそれほどのうまみは生まれない。DRM Freeでも何も問題がない。そのような環境の中でも流行る歌は流行るだろう。無理に大量に流して無理に流行らせるよりはよほど健全だ。沈みゆくタイタニックにしがみつくよりも、小さな救命ボートを多数用意してみんなで逃げた方が良い。

ちゃんとお金を払う正規ユーザーに不便を強いていじめてしまえば、ダウンロード販売の売り上げなど伸びるはずも無かろう。同じような例はこれまで何度も起こっており歴史が証明している。

音楽業界がタイタニックに最後まで残るのは勝手だと思う。しかし、これから生まれる新たなネット文化を道づれにするのはやめていただきたい。なぜ日本から革新的な企業が出てこないのか。答えは簡単である。斜陽産業を保護するために、または既得権益の利権を守るためにこんなことを続けているからだ。失われた20年を経て、まだ懲りていない。今までのやり方では駄目だと言いつつ今までのやり方に未練たらたらな姿は、とても痛ましい。

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