プリント失敗のトラウマ
よりきれいな造形を求めて光造形方式3DプリンターLittleRPに手を出し、3Dデータの作成環境も整え、快適な3Dプリントライフを送ってきた訳だが、事態に動きが無くなると何か事を起こしたくなるのが人情と言う物だ。かねてから予告されていたLittleRPのチルト機構を追加するキットが発売されてしばらく、当初は買う予定にしていなかったこのキットだが、結局欲しくなって買ってしまった。LittleRPはビルドプレートと液体樹脂をためておくペトリ皿の底が平行になっていないと造形物がビルドプレートからズレて剥がれてしまいがちだという問題があった。かといって全くの平行にしていると、光を当てて硬化させた後、持ち上げてペトリ皿の底から造形物を剥がす時、造形物とペトリ皿の底の間に真空状態ができてしまい、吸盤のように持ち上げられる動作に抵抗力が生まれてしまう。特に平べったい台座部分を造形しているときなど、リフト動作時に聞こえる「ずっぽん!」という音に、造形物がはがれたりずれたりしたのではないかとひやひやさせられていた。しかし、チルト機構を追加してリフト動作と同時にペトリ皿を斜めに傾けると、斜めにはがれることで液体樹脂の流れ込む隙間が生まれ真空状態の発生が軽減できる。造形台から落っこちて造形失敗という悲劇の件数を少なからず減らす効果あると言う。幾多の造形失敗を乗り越えるたびに、その回数を減らすことでどれだけの時間が節約できるかと失敗のない3Dプリントパラダイスを遠い目で夢想せずにはいられない。プリントの失敗で一日が終わってしまう事も珍しくは無いのだ。失敗の確率を少しでも減らせると聞くと、3Dプリント戦士ならば手を出さずにはいられないのである。そんなチルトキットを手に入れて組み立ててみたので、電子部品編、本体組立編、ソフトウェア設定編の3回に分けて語って行こうと思う。
中身の確認
USPSで届いたアメリカからの荷物は、思ったよりも小さかった。造形台とモーターと細々とした部品だけなので小さな小包に収まってしまう。
まず、バネが4つ、M4x40mmの皿ネジが6本、先っちょだけネジが切ってあるM3x50mmのボルト
2本、M4ナット
が16個、ゴムシート
が1枚、M4ネジ用のワッシャー
6個、M3ボルト用ワッシャー
2個、M3x8mmのネジ
3個、M4x40mmの丸頭のネジ
4本、M5x20mmの皿ネジ
2本。
3Dプリント部品は赤色のPLA樹脂で出力されたものがついてくるが、以前、プリント部品をすべて黄色にしてしまったので今回も黄色の部品を自前でプリントして用意しておいた。個数はそれぞれ、ペトリ皿を止める足6本、台座を止める円柱上の部品4個、モーターに取り付けてTilt台を押し上げる部品1つ、手回し用の取っ手6個。
ペトリ皿をチルトさせるためのTIlt台1つ。右側がオリジナルのパーツである。保護シールが張ってあるが、それを剥がすと透明のアクリル板でできている。この上にペトリ皿を乗せて斜めにすることでリフト動作時に造形物がペトリ皿から剥がれやすくするのだが、このままではプロジェクターから発射された光がアクリル板を通ることになる。いくら透明度が高いとはいえ、やはり厚さ6mmのアクリル板となると、光が減衰したり屈折したりするのではないかと気になる。さらにペトリ皿と物理的にこすれるので細かい傷が運用していくにつれて増えていく事になるだろう。そうなるとさらに光は通りにくくなり、造形に影響が出まくる事は間違いない。ならば、光がとおる部分には大穴を開けておけばよい。オープンソースハードウェアであるLittleRPの部品のデータはすべて公開されているのだ。電子データがあればちょちょいのちょいで改造できてしまう。ちなみにこのデータを以てアクリル加工業者にこの部品の制作の見積もりを取ってみたところ、これ一枚で1万円を超えていた。さらに、ついでにLittleRPのすべての本体パネルの作成も見積もってもらったがパネル6枚で6万円を優に超えた。穴が開いていているならば、透明なアクリルである必要もないのではないかと思い直し、熱融解積層方式の3DプリンターでPLA樹脂製の改良部品を出力してみた。これが思ったよりうまくいった。強度にはいささかの不安は残るが、3Dプリンターで作ってるので幸い取り換え用の部品はいくらでも作れる。
ステッパーモータードライバー1つ、ピンヘッダ2列x3 1つ、ジャンパピン2つ、ピンソケット8P 2つ、基板ヘッダ1列x4 1つ、電解コンデンサー100μF 35V 85℃ 1つ、セラミックコンデンサー0.1μF 50V 1つ、あと、写真には写ってないがステッパーモーター接続用ハーネス1つ。写真の左側に映ってるシールドボードは本体から取り外したものであり、今回のキットには含まれていない。
材料はそろった!じゃあ、いっちょやってみっか!
はんだで付ける
確認した部品のうち、基盤にくっつける用の部品だけ袋から出して、はんだ付けをしていく。例によって本体から各ケーブルを抜いて、基盤を取り外し、三枚におろす。基盤は純正部品はArduino互換基盤であるRED Boardが使われていたが、本家のArduino Unoに交換してあるがこれは今回のチルトキットに含まれていたものではなく、趣味で変えているだけだ。
さらにステッパーモータードライバーもオリジナルではなくTMC2100に交換している。このあたりは気にしないで作業を進める。
aruduino unoに換装した話はこちらを、
・光硬化式3DプリンターLittleRPのメインボードをArduinoに変えてGBRLもバージョンアップしてみる。
ステッパーモータードライバーをTMC2100に交換した話はこちらを、
・3DプリンターReplicator2XのモータードライバーもTMC2100にしてみる
シールドボードを拡大してみる。右半分にプリントだけされて部品がつけられていないスペースがあるのが解かる。今回はここチルト用のモーターを制御するために部品をはんだ付けしていく。最初から部品がついている側がZ軸で、今から付けていく側がY軸となる。
パーツをそれぞれ取り付けるところに乗せてみる。とこんな感じになる。
電解コンデンサーにはプラスとマイナスの極性があるので向きを間違えないように気を付ける。銀色の-と書かれている短い線の方が-で、長い方が+になっていた。基盤の-と+に間違わずに取り付ける。豆粒みたいなセラミックコンデンサーには極性は無いので好きな向きに付ける。
これらをひっくり返しても落ちないように粘着性の紙テープで仮止めする。
ひっくり返すとこんな感じ。これを一つ一つ丁寧にはんだ付けしていくのだが、全部いっぺんに仮止めしたために長い端子が邪魔で作業がしにくかった。横着をせずに少しずつ取り付けていくのがいいのかもしれない。はんだ付けしたら、長い余分な足はペンチで切っておく。
これでモータードライバーがZ軸用とチルト用の二つを搭載できるようになった。モータードライバーの取り付ける向きを間違えると、モータードライバーのチップが焼け焦げてしまうので向きには十分注意する。またヘッダピンはMS1とMS2に付けておく。長くなってしまったので今日はここまで。本体の組み立て部分は次回に譲る事にする。こうご期待!