前々前回、前々回、前回とKickstarterで出資した光硬化式(SLA方式)の3DプリンターLittleRPの出力環境を整えてきたわけだが、いよいよ本当に出力してみる。熱融解積層方式(FDM/FFF方式)の3Dプリンターとは違い、液体の紫外線硬化樹脂を使用するので樹脂の扱いが色々と注意が必要だ。FDM/FFF方式で使用されるPLA樹脂は地球にやさしいことが売りで人体に対する影響も最小限に抑えられているというし、ABS樹脂もコンビニのレジでついてくるスプーンなどに使われていることから、冷めて固まった状態なら舐めても無害だ。それに比べてSLA方式で使用される紫外線硬化樹脂は、液体の状態で皮膚に触れないように気を付けなければならない。目に入ったら重篤なダメージを受ける可能性すらあるらしい。ゴーグルと手袋は必須だ。マスクもあったほうがいいのかもしれない。換気も万全である環境を確認したら、いざ作業に入ろう。
リモートデスクトップとLittleRP
液体樹脂は結構ケミカルなにおいを発して臭いので、3Dプリンタ類は普段いる部屋の外に置いておくのがいい。できるならば作業部屋を確保してそこにおいておくのが幸せな3Dプリンタとの同棲の仕方であろう。そうなると、部屋の外から進捗具合を管理する必要があり、最近の3Dプリンタにはwi-fiやカメラがついている機種が珍しくない。LittleRPにはそんな機能は無いが、接続するPCとの間でリモートデスクトップ(RDP)ソフトを使うことで遠隔操作ができるような環境を整えておけばいい。
その際、最初はWindowsのPro以上のグレードに内包されているリモートデスクトップ接続機能を使えばいいかと考えていたが、Windowsのリモートデスクトップ接続で接続した状態で、LittleRPの管理ソフトであるCreation Workshopを起動すると、接続されているはずのプロジェクターを認識できない。これは、Windowsのリモートデスクトップが、サーバー側ではなく、クライアント側のディスプレイに合わせて環境を作り直してしまうためである。表示できないサーバー側のディスプレイなどクライアントには関係なかろうと言う仕様だ。しかしこれは使いづらい。クライアントで接続した後、サーバー側でローカルにログインすると、並べてあったデスクトップアイコンや、見やすいように調整してあったウィンドウの大きさなどがめちゃくちゃになってしまう。そんな細かいところでなくとも、今回プロジェクターが認識できないのは大問題だ。
なので、そのような場合のリモートデスクトップにはVNCなどのリモートデスクトップソフトを使うと便利だ。Windowsのリモートデスクトップと違い、基本的に画面を転送するだけなので、クライアント側のディスプレイ環境に左右されず、サーバー側のディスプレイ環境で表示されているものがそのまま転送されてくる。我が環境では、Brynhildrというソフトを使用させていただいている。
このソフトはインストールの必要もなく、ダウンロードして解凍し、実行するだけで使える。さらにものすごいのは、リモートデスクトップ越しに動画と音声の転送が可能だと言う事だ。このアプリで作業場PCと母艦PCの間で双方向に通信可能にしておけば、母艦PCで再生している動画や音楽を作業場で流しながら作業したり、母艦PCのある部屋から作業場PCの様子を確認すると言ったことが可能になる。勿論、マルチディスプレイにも対応しているので、プロジェクターもちゃんと認識し、いまプロジェクターにどんな画像が表示されているのかを確認することすらできてしまうのだ。以下、メインディスプレイと、LittleRP出力用のプロジェクターを接続しているPCへBrynhildrで接続したイメージだ。とっても便利でおすすめである。
はじめての出力
まずは、LittleRPの公式サポートページにおいてあったキャリブレーション用のSTLデータcalibrationtarget_solid.STLを出力してみよう。
マウスドラッグで回転、shift+マウスドラッグ又はマウスホイールで拡大縮小
Creation Workshopを起動して、左上のフォルダアイコンをクリックして、calibrationtarget_solid.STLを読み込む。
読み込んだら、フロッピーアイコンをクリックしてスライスファイルを名前を付けて保存しておく。先にこれをしておかないと、スライス開始した時に怒られるのだ。
そして上のショートケーキのようなアイコンをクリックして、表示されたポップアップウィンドウで”Slice”ボタンをクリックするとスライサーによるスライスが始まる。ここで前々回設定したプロファイルを選択することができるので複数の設定を使い分けることができるようになっている。このデータの場合、1層50マイクロメートルの設定でスライスしたら193層で造形時間約30分、25マイクロメートルでスライスしたら386層で約1時間ほどの出力時間となった。
右上の”Slicing Completed”の表示でスライスが終わった事を確認したら、接続アイコンをクリックして、LittleRPとPCの接続を開始する。
この状態でPCはひとまず置いておいて、LittleRP本体のビルドプレートの表面を、付属の紙やすりで荒らしておく。そうしておくと造形物のビルドプレートへの食いつきが良くなる。そしていよいよ意を決して樹脂を開封してペトリ皿に液体樹脂を開けてみる。ふたを開ける前に良く振ってシェイクしておく必要がある。そうしないと顔料と樹脂が分離してしまっているからだ。ドレッシングの原理である。今回はLittleRPの本体購入時におまけでついてきたMakerJuice社のSF for LittleRP、Deep Redを使う。
樹脂を入れたペトリ皿をLittleRP本体にセットしたら、ビルドプレートを手で押し下げて、ざぶん!と樹脂に漬けてしまう。ペトリ皿にビルドプレートを少し押し付けるくらいでちょうどいい。あまり優しく置くだけだとビルドプレートに造形物がくっつかない。
そこまでできたら、いよいよ造形開始である。PCに戻って再生アイコンをクリックするとプリントが始まるので、プリント終了までただ待つのみだ。その際、遮光板を抜いておくことを忘れないようにする。
この初めての出力は期待通りに失敗してしまい、成功までに3回のリトライを必要とするのだが、今回の記事も長くなってしまったので、そのあたりのトライアンドエラーの軌跡は次回に譲ることにする。なかなか本題にたどり着かないのは毎度のこととしてご容赦願いたい。震えて待て!