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書評
2013-03-25 12:18 by 仁伯爵

最近なにかと現状を分析する文章を読んでいると「リーマンショック以降」という言葉によく出くわす。あたかも世の不調の原因が全てリーマンショックであるかのような錯覚に陥ってしまいそうだが、日本はそれ以前からずっと行き詰った重い空気を払しょくできずにいる。失われた10年が失われた20年へと記録更新した後も着々と失われ続けている。失われた30年と言われ始めるのも時間の問題だろう。それが今や世界に目を向けてもサブプライムショック、リーマンショック、ドバイショック、ギリシャショック、キプロスショック、と今や世界中ショックだらけである。債権のショックが企業のショックへと伝播し、このところつぶれそうだと騒がれるのは銀行や企業だけでなく、国までもがデフォルトリスクを抱えていると懸念されている。この先どうなるのかの予測が一個人では不可能であるならば、世の中の偉い人たちはどういっているのか、今どんな意見が出そろっているのかとても知りたくなって手に取ったのがこの本、「2052―今後40年のグローバル予想―」である。

私の小さな脳みそで理解できたこの本の内容はざっとこんなところである。

  • 継続的な経済成長は不可能。
  • エネルギーは結構持つが、化石燃料はいずれなくなりエネルギーコストは上昇する。
  • 食料もしばらくは大丈夫だが、減っていく。
  • 富の再配分の不平等性と、CO2による気候変動が破滅の原因となる。 
  • ゆっくりした衰退か、突然の破滅のどちらかを選択する必要がある。
  • 民主主義では、迅速に最善の選択をする事は不可能である。
  • 著者の予想が的中しないようにどうか力を貸してほしい。

金融による経済成長の継続が不可能になり、若い世代が旧世代のつけ(年金と負債)を受け入れることを拒否する事による混乱が起こる。また、生産性は上がるが、人口が頭打ちになることにより労働力が減少し、消費が落ち込む。GDPはしばらく伸びるだろうが次第に緩やかになっていく。

エネルギー問題については、化石燃料はまだまだあり、合成油やシェールガスなどの新しいエネルギーも増えて、エネルギー効率が上がるため、エネルギー強度(GDPにおけるエネルギー使用量の割合)も下がり続けるという予想だった。さらに、エネルギーの消費量も頭打ちになり減っていく。並行して化石燃料への依存脱却と、原子力発電が減少し、太陽光や風力、揚力などの再生可能エネルギーの技術開発が進むと予想される。

食料問題も、食料需要が減少するので食糧危機は起こらないとされる。飢餓人口も減るはずだが、減らないとすれば経済に問題がある。温暖化により農業生産が5%減少する。レッドミート(牛肉)からホワイトミート(豚肉、鶏肉)へとシフトしなければならなくなる。牛肉1Kgあたり必要な穀物は7Kgだが、鶏肉1Kgあたりでは2Kgで賄えるという。

自然環境は、CO2の排出増加によって地球温暖化が進み生態系が大きく毀損される。緑豊かな自然を求めて旅行をするといった行動は今だけのお楽しみとなり、未来ではデジタル画像でしかお目にかかれなくなるのだそうである。

これらの問題を回避するには、ゆっくりとした衰退を選ぶ政策を実行する必要があるが、民主主義では決定までのプロセスに時間がかかり過ぎ、既得権益からの抵抗で回避策が骨抜きにされるので、政策実行が間に合わずオーバーシュートしてしまう。中国などの強権発動も辞さない政府が修める国が有利になるため、政府による介入が各国で強まるという。

とまあ、以上のように問題てんこ盛りの未来が予想されている。著者のヨルゲン・ランダースは、「成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機」レポート」の制作にも参加しておりこのころから危機を叫んでいたにもかかわらず、人類が一向に持続可能な社会へ舵を切らない事をずっと危惧し続けているようだ。とりわけCO2による地球温暖化によって気候が大きく変わってしまうことによる弊害が本書の随所に出てくるが、温暖化のCO2犯人説に抵抗がある人はそこで読むのをやめてしまわないか心配になった。

また、民主主義ではこの危機に対処できないと指摘しつつ、それに対する対策が賢い指導者による強権的な体制であるという点も少し気になった。真に賢い指導者ならば強い権力を集中させてしまってもよいかもしれないが、その指導者が人間である限りは暴走の危険性を排除できず、だからこそ私たちは民主主義という「完璧ではないが現状で一番ましなシステム」に身をゆだねているわけで、発展的ではない民主主義の変化を私は望まない。危機を言い訳にした不必要な権力の拡大に利用されてしまわないか心配だ。結局のところそうなる可能性のほうが大きいだろう。

財政が際限なく不必要にどんどん肥大化し、守る価値もない法律がどんどん制定されて運用される昨今、民主主義の欠点を解決するのが「賢い政府による強権発動」だと言われても到底受け入れることなどできない。「賢い指導者」などというものは幻想にすぎず、「神様に政治をやってもらえばいいよ」などと言っているも同義だからだ。

著者の主張には疑問符をつけたくなるところがたくさんあるとは言え、この本には著者が依頼して各界の専門家に40年後の未来予測を1500字以内で述べてもらうという試みがされており、その全文または抜粋が40篇収録されている。これらは、政治、経済、エネルギー、生態系など様々な角度から皆それぞれに予測しており、著者の主張と大きく外れるものではないものの、それを読むだけでも好奇心を十分に満たしてくれる一読の価値があると言えるだろう。

若い世代が旧世代のつけ(年金と負債)を受け入れることを拒否するという項目が書かれていたのも面白いと感じた。年金の未払いとか、若い世代へのつけなどといった日本国内でもよく話題になる問題が、グローバルな問題として記述されている。この問題がグローバルな問題だとすれば、日本国内だけで破たんした年金や次世代への負債などを議論しても、解決するのは難しいのかもしれない。

この本はとても分厚く、全部読むには骨が折れる。内容もとっ散らかっておりヨルゲン・ランダースという権威のある人の著作でなければバッサリと300ページほどの本に編集されてしまっていたであろうこと請け合いであるが、それだけ自由に書かれているがゆえに思わぬところに、思わぬ面白情報が書かれていたりして大いに知的好奇心を満たしてくれる興味深い一冊だ。世界の偉い人たちが何を考えているのか、我々にどっちに進んでほしいと思っているのか、手がかりをつかむには良い本であった。

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